第6話 【俺の映画】続編決定!

「そう!我らがプロジェクトは次の段階に進むのです! カモーン!!」

ハイテンションの役人が、パチンと指を鳴らす。

その瞬間、俺の部屋の玄関のドアが乱暴に開かれる。

開かれたドアの向こうから現れたのは、数人の黒づくめの格好をした屈強な男達。

「な、なんだよ! あんたら!」

乱入してきた男達が、俺の腕を掴み上げる。

「離せ! 何をするん…」

俺は抵抗の言葉を発する。が、その言葉は口元に重ねられたタオルに阻まれた。

鼻の奥に強い刺激臭が刺さる。

同時に意識は遠のき、四肢の力を消失した俺は屈強な男達に身体を預ける。

「貴方の身はすでに我ら、我らプロジェクトの大切な歯車…では無く、重要なキーパーソン。言わばVIPです。」

薄れゆく意識の彼方で、役人の声が聞こえた。

「VIPである貴方に相応しい環境に、環境に貴方をお連れ致しましょう。」

…そこで俺の意識は閉ざされる。



瞼が重い。意識が鈍い。

酷い眠気だ。

一体、俺はどうしたんだっけ?

「…ここは?」

なんとか意識を覚醒させ、重たい体を起こした俺は周囲を見渡す。

…どうやら、ホテルの一室のようだ。

「お目覚め、お目覚めですか? ○○様。」

「…ここはどこですか?」

「貴方様が今後、我らのプロジェクトに専念できるよう、できるよう、借りたホテルの一室でございますよ。」


「あの、帰りたいんですが…。」

「あ、それは無理、無理でございます。貴方様は、我らのプロジェクトが終わるまで帰すわけには、帰すわけには参りません。」

見ると、部屋の出口には屈強なガードマンがいる。

俺を攫った連中だ。


「でも俺、部屋に荷物とか置いてあって、取りに行かなきゃ。仕事もあるし…。」

「あ、ご安心下さい。あのオンボロアパートは既に引き払い、引き払いました。私物は全て処分しました。あと仕事も辞めるように手配しておきましたので。」

お、おい!

「そんな、勝手に!」

「大丈夫です。損害は、損害は保障しますので。」

「で、でも中には、金に換えられないものだって…。」

「そんなものは、ありません。」

役人がピシャリと答える。


「世の中に、金で保障できないものなど有り得ません。ご安心下さい。」

「は?」

背筋がぞくりとする。

それってつまり『俺に何があっても金さえ払えばいい』って事だよな?

いったい俺は、これから何をさせられるんだ?



「【貴方の映画】第二弾は、オムニバス形式の内容にしようかと考えて、考えております。」

「オ、オムニバス…?」

今度は複数の短編作品構成の映画にするということか?

「このオムニバス形式を選んだのには理由がありましてね。」

「は、はぁ。」

「一作目の映画は失敗でした。」

あ、この人も失敗だと肯定しちゃったよ…。

「我々はその失敗の原因を検討しました。結果、一作目の映画の失敗の原因は、原因は!」

「はぁ。」

「貴方の、魅力が、足りなかったのです! 全ての原因は、貴方! 貴方にあったのです!」

「はぁーーーー!」

俺を無理矢理巻き込んでおいて、何を言ってるんだ? この役人は!

「この結論に辿り着くまでに我々は長い時間を会議に費やしました。」


「だから最初に言ったじゃないですか! なんで俺なのかって! そもそも『平凡な人間をスターにする』のが、この企画の肝なんじゃないんですか! 今更、俺を失敗の原因にするなんて酷いじゃないですか!」

「我々は失敗をしません。ただ、ただひたすらにより良き社会の為に会議を重ね改善を行うのみです。」

俺の訴えに対して役人は平然と言葉を返す。


「我々は考えました。そして閃いたのです。」

「…何を閃いたんですか?」

「貴方に魅力は全くありません。皆無。皆無です。あ、皆無の意味、分かります?」

「ふざけるな!」

人をなんだと思っているんだ! 俺は激昂する。が、

「あ、怒らない怒らない。逆らえば公務執行妨害罪に問われますよ?」

くそぅ…。

「話を戻します。皆無とは、全く無い。ゼロ。魅力ナッシング、という意味です。それは先の撮影で判明している事です。」

…怒りのやり場がない…。

「というわけで、我々は、貴方の魅力を引き出すという無駄な、無駄な努力を諦め、代わりに、貴方の魅力を『創る』事にしたのです。」

み、魅力を創る? どうやって?

「そう、貴方の魅力を、その骨から、血肉から、臓腑から、魂の底からから引き摺り出し、その上で塗り替える必要があるのです!」

…この役人、とんでもないことを言い始めた。


「その為に、我々労働厚生省は、かの大国より名トレーナーを雇い入れ、貴方の存在をプロデュースしてもらう事に決定したのです。」

トレーナー?

プロデュース?

その時、玄関のドアがバンと勢いよく開かれ、

「ハーイ。僕がその名トレーナーデース。で、どなたをトレーニングすればいいのデスかー?」

癖の強い日本語を喋りながら、派手な身なりの見るからにマッスルな外人男性が部屋に闖入してきた。

「え、えっと?」

突然の人物の登場に俺は困惑する。

「こちらのお方が、我々が高額で雇い入れた名トレーナーです。」

「ヘイユー。紹介ありがとーデス。私にかかれば、どんな豚でも真珠となり、どんなトンビも鷹になりマース。醜いアヒルのベイビーを美しいスワンにするのが、私の仕事デース。お金さえ支払ってくれれば、『どんな事』をしてでも、『仕上げて』みせマース。」

「ええ、ええ。お願いします。どんな、どんな手段を用いてでも、彼を魅力ある若者に育てて頂きたいです。費用も方法も問いませんので。」

役人が揉み手でトレーナーに頭を下げた。

「ワカリマーシタ。私にマカセテ下さ〜い。○○君。ヨロシクオネガイしまーす!」

「は、はぁ…。」


「では、こちらを、こちらをご覧ください。」

傍らの役人が俺に企画書を渡す。

【俺の映画】第二弾。

5話構成のオムニバス形式の映画。

登場人物は…。

サラリーマン、中年男性、女子高生、主婦、老人…。老若男女が揃ってるが…。

「○○さん。貴方にはこの映画の中で、一人で12役を演じて頂きます。

はぁぁぁぁぁぁぁ!

「まさか、登場人物全員、俺が演じるんですか?」

「はい。その通りです。12役もやれば、どれか一つぐらいは貴方の魅力を引き上げられる事でしょう! どれか一つぐらいはヒットする事でしょう!」

「む、無理! 絶対無理! 年齢どころか性別すら違いますよ! どうやって演じるんですか!」

「ハーイ、その為に私がイマース!」

外人トレーナーがしゃしゃり出てきた。

「これらの役を同時に演じるタメに、貴方のスケジュールは完全に管理させてモライまーす!」

「え?」

「一人で12役。しかも貴方は素人デース。役作りと演技指導の為には、起きる時間から寝る時間、食事の時間にメニューまで私達が管理しマース。」

その為のホテル監禁か…。

「さ、撮影期間はどれくらいなんですか?」

「一ヶ月です。」

…スケジュールがイカれてる。

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