ランチを奢られる Part.1 #6

「ごちそうさまでした」


店を出て、ジャイルに礼を言う。


彼は「いえいえ」と、人の良そうな笑みを浮かべる。


「あれだけ喜んでいただければ、ご馳走した甲斐があったというものです」


広場へと続く石畳の道を歩く。


向こうから、杖とハンティングナイフを携えたアイリシアが歩いてくるのが見える。


僕らに気づくと、彼女は少し意外そうな顔をしてこちらに歩み寄ってくる。


僕とジャイルが連れ立って歩いているのが、不思議なのだろう。


「やあ」


アイリシアが声をかける。


「これはアイリシアさん、こんにちは。これから森ですか?」


ジャイルが商人らしい柔和な笑みを返す。


「そうだよ。……ところで、これはどういう状況だい?」


一瞬、何が? とでも言いたげな顔をしたジャイルより先に、僕が口を開く。


「ジャイルさんにお昼をご馳走になっていたんです」


「へぇ……。もうそんなに仲良くなったのかい?」


アイリシアは僕の顔とジャイルの顔を面白そうに見比べてから、ジャイルに向き直る。


「彼は面白いだろう?」


「ええ、かなり」


ジャイルが楽しそうに頷く。


「彼のことはどう思う?」


コミュニケーションとしては、やや性急な話の展開だ。


彼女は僕とジャイルの関係を詮索しているのだろうか。


「実に不思議な方ですね。ご本人の前で言うべきことではないかもしれませんが、知識や興味の範囲に偏りがあると言いますか」


偏り。


その言葉は、的確に僕という存在の歪さを言い当てている。


「ご存じのこととそうでないことの差が激しく、興味を持つポイントが他の方とは違う気がします。今まで出会ったことのないタイプの方です」


ただ一方的に世間話を聞かされているだけだと思っていたが、彼は僕の僅かな受け答えや反応から、僕という人間を冷静に観察していたのだろう。


さすがは商業ギルドの支部長を務めるだけのことはある。


「それに、とても誠実な方だとお見受けしました。商業ギルドに身を置く者として、それだけで好感が持てます」


ジャイルの言葉に、アイリシアが深く頷く。


「私としては、すぐにでも商売を始めてほしいところなのですが」


アイリシアは、ふふ、と笑う。


「ところで、仕事は見つかったのかい?」


その問いに、ジャイルは少し気まずそうな顔をする。


「いえ、今のところは……。これから冒険者ギルドで話を聞いてみようかと」


僕の返答を聞いた瞬間、アイリシアの表情が消える。


一瞬、重苦しい沈黙が場に満ちる。


「……そうか。……じゃあ、私は森に行くよ」


何の余韻も残さず、彼女は踵を返す。


そのまま、正門の方へと早足で歩き去ってしまう。


僕とジャイルは、その後ろ姿を呆気にとられて見送るしかない。




冒険者ギルドは、広場の女神像を右に折れた道にある。


ゲームで何度も通った施設だ。場所は記憶に鮮明に焼き付いている。


念のためジャイルに確認すると、今も同じ場所にあるらしい。


分かれ道で、僕らは足を止める。


「私はいつでも暇です。……本当に」


ジャイルが名残惜しそうに、念を押す。


「ですから、いつでもお越しください」


「はい。今後とも、よろしくお願いします」


僕は深々と頭を下げ、彼の親切に感謝を告げる。

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この世ならざる者、異世界で生きる 浅田三等兵 @asada_santohei

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