ランチを奢られる Part.1 #5

「それと、アイリシアさんのところに身を寄せているのでしょう。でしたら、彼女と一緒に森へ入るのはいかがですか? お小遣い稼ぎ程度にはなりますが、薬草採取や砂鉄拾いのようなクエストなら、すぐにでもできると思います」


薬草採取はクエストの基本中の基本だ。


薬草は至る所に自生しているため、採取クエストは常に受けておくのが定石となっている。


冒険者ギルドは店売りより常に高値で買い取ってくれるが、それはクエストを受けていることが条件だ。


薬草にはいくつかの等級があり、鑑定スキルが上がれば、より上質なものを見つけやすくなる。


それに、素材採取は星の運行による影響も関わってくる。


今の僕は星の運行を操作できず、効率の良い採取は望めない。


そもそもアイリシアの世話になっては本末転倒だ。


「薬草採取といえば……、昔、当時の恋人と一緒にクエストを受けて、それで喧嘩になりましてね」


ジャイルが、どこか懐かしむような目で語り始める。


「薬草の摘み方が気に食わないと、本気で怒られまして。別れる寸前までいきました」


「……それは彼女さんに何かこだわりがあったのか、ジャイルさんの摘み方が変わっていたのか、原因はなんだったんですか?」


僕の問いに、ジャイルはジェスチャーを交えて答える。


「私はこう、茎を押しつぶすように摘むんです。それだと『美しくない』というのが彼女の言い分でして」


美しくない。


「実際、採取方法で違いは出るものなんですか?」


「いえ、結局のところ、すりつぶしたり、乾燥させたりと、加工が前提のものですから、どう摘もうが支障はありません。買取価格にも違いは出ないんです。ただ、彼女は貴族御用達のレストランの娘でして、薬草といえど、口に入れるものに雑な扱いをするのが許せなかったんでしょうね」


育ちがいいのだろうな、と思う。


「結局、私が折れました。単に彼女の尻に敷かれたくなかっただけで、摘み方にこだわりがあったわけでもなかったので。それで薬草採取の際は小型のナイフを持ち歩くようになりました。ただ、そっちの方が効率が良かったんです。スパッと切った方が、押しつぶすより早く確実に採取できますから。折れて良かったと今は思っています」


その後も、ジャイルの冒険者ギルドでの思い出話をしばらく聞く。


やがて昼休みが終わる頃合いになり、彼の方から話を切り上げる。


「この後はどうしますか?」


「そうですね。ひとまず、この後冒険者ギルドを訪ねてみようと思います」


ここで曖昧な返事をすれば、商工会議所に戻って、午後いっぱいジャイルの世間話に付き合うことになりかねない。


それに、店を一軒一軒聞き込みして回るより、まずは冒険者ギルドに顔を出すべきだ。


僕らは席を立ち、会計のカウンターへと向かう。


ジャイルは気前よく僕の分まで支払いを済ませる。


差し出された銀貨一枚に対し、返ってくる釣り銭は銅貨が数枚だ。


そこそこ値の張る食事のようだが、元の世界であれほどの料理が提供されるなら、三千円でも決して高いとは思わない。


「ぜひ、またいらしてくださいね」


ウェイトレスが、満面の笑みで僕に告げる。


「うちの旦那があんなに嬉しそうな顔をするの、久しぶりに見ました」


彼女が指差す厨房に目をやると、料理人がこちらを窺っている。


視線が合った途端、彼は慌てたようにくるりと背を向け、何事もなかったかのように鍋の前に戻る。


「恥ずかしがり屋なんですよ」と彼女は悪戯っぽく笑う。


「ええ、必ずまた来ます。他の料理も気になりますから」


それは本心からの言葉だ。


ただ、その「また」がいつになるのか、今の僕にはわからない。

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