商業ギルドで求職する #2
僕が腰を下ろすと、ジャイルはすぐさま執務室の奥の部屋へと下がる。
おそらく、何か口にするものを用意しているのだろう。
なんとなくいい予感がしないので、このまま一声かけて帰ろうかとも考えてみるが、無職の僕が商業ギルドに悪印象を与えるのは得策ではない。
しばらくして、ジャイルは両手にマグカップを持って戻ってくる。
差し出されるのは、彼が淹れてくれたコーヒーだ。
昨日から紅茶ばかりを飲んでいる身体には、その香りが新鮮に響く。
「本部から送られてきた『コルサス』という豆でして。貴重なものらしいのですが、正直なところ、私にはどうも良さがわかりません」
ジャイルはそう言って、困ったように眉尻を下げる。
コルサス、という名には聞き覚えがある。
僕の記憶を辿れば、それは女神像と教会があり、武具屋と宿屋が揃う、ゲーム内ではありふれた村のひとつに過ぎない。
モフモフの冒険に必要な施設がただ揃っているだけの、なんの変哲もない村だ。
その村が今やコーヒー豆の産地として、それなりに珍重されているらしい。
「いただきます」
勧められるまま、カップに口をつける。
舌に乗った瞬間、苦味を突き抜けるほどの強烈な酸味が広がり、僕は思わず目を見開く。
その反応が顔に出ていたのだろう。
ジャイルは安堵したような表情で頷く。
確かにこれは、好みがはっきりと分かれる味だ。
彼の言う「良さがわからない」という気持ちは痛いほどよくわかる。
「これは……なかなか、個性的な味ですね」
僕が正直な感想を述べると、ジャイルは膝を打つ。
「コルサスは、近頃貴族の間で流行の兆しがありまして。高貴な方々というのは普段から良いものに囲まれていらっしゃるので、単に美味しいものよりも、こうした風変わりなものを喜ばれる傾向にあります」
良いものに飽き、変わったものに心惹かれる。
その感覚は、現代人としてもわからないではない。
ふと、ジャイルの視線が僕の手元にある女神像に向けられる。
「その女神像は、レイエの……、いえ、エステラ屋で?」
レイエ、というのはあの屋台の店主の名前だろう。
「ええ。店主からいただいたものです」
「いただいた……?」
「はい。女神エステラの話で意気投合しまして」
意気投合、というのは少し大袈裟かもしれないが、嘘ではない。
ジャイルは何かを考えるように、軽く顎に手をやる。
「そうですか。売るだけでなく、無償で譲ることもあるのですね」
その声に、そして表情に、わずかな険が差す。
僕は何かまずいことを口走ってしまったのだろうかと、不安が首筋を掠める。
「あの、何か問題でも……」
「あ、いえ。まあ、なんと言いますか……」
ジャイルは言葉を選ぶように一度口ごもり、やがて観念したように息を吐く。
「店主のレイエは、商業ギルドにとっては少々、頭の痛い存在でして。その扱いに、手を焼いているところなのです」
彼の口から飛び出たのは、予想外の言葉だ。
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