娼婦と信仰を語る #3
広場の中央にそびえる女神像。
そこに視線をやりながら、僕は尋ねる。
「そのエステラ様の顔というのは、あちらの像のことですか」
「はい」
さすがに、実際に会ったわけではないらしい。
「あそこにいらっしゃるエステラ様は、手前どもが物心ついた頃からずっと、優しい笑顔でこの街を見下ろしてくださっています。そのお顔に、どれほど救われてきたか分かりません」
それまでの淡々とした口調とは打って変わり、その声には熱がこもる。
「手前どもは、夜は娼婦をやっておりまして」
不意に投げ込まれた「娼婦」という言葉に、思考が一瞬、停止する。
「辛い思いをすることも、決して少なくはありません。ですが、そのような時でも、エステラ様は卑しい手前どもにも分け隔てなく、優しく微笑みかけてくださいます。その御恩に、ほんの少しでも報いたいと……そう願っております」
単なる「推し活」の一種だと、どこかで侮っていた認識が揺らぐ。
彼女にとって女神の存在は、もっと切実な、縋るべき生命線のようなものらしい。
「ですが、残念なことにエステラ様を信仰する方は、もう……」
言葉を切り、彼女は悲痛な面持ちで僕を見つめる。
「この街には、今では数えるほどしかおりません。ですから、教会には常駐の牧師様もおられず、礼拝の日に近隣のリーゼリオから週替わりでいらっしゃるのがやっと、という有様でして」
その表情は、切実に何かを訴えかけてくる。
「ここにあります像の売上は、すべて教会の維持のために寄進しております。もし、よろしければ……このうちの一体でも、お買い上げいただくことはできませんでしょうか」
懇願するようなその眼差しが、まっすぐに僕を射抜く。
アイリシアの話が脳裏をよぎる。
女神エステラの力は迷信だと思われている。
信仰そのものが廃れ、信徒は減り、この街からは牧師さえも姿を消しているらしい。
彼女の語る現状と一致する。
そして、目の前の彼女の言葉には、嘘偽りのない切実さが宿っているように感じる。
だが──心のどこかで、冷めた自分が囁く。
本当に寄進される保証など、どこにもない。
ただ、この粗末な木彫りの像を売りつけるための、同情を誘う口実ではないのか。
僕が答えあぐねていると、店主が探るような視線を向け、静かに問いかけてくる。
「失礼ですが、あなた様はエステラ様のことを、どう思ってらっしゃいますか?」
その口ぶりから、僕が女神エステラの信者でないことは、すでに前提となっているのがわかる。
それでもなお、僕が一蹴もせず迷っている、その理由を知りたいのだろう。
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