娼婦と信仰を語る #2
アイリシアの家を後にし、石畳の道をたどり、街の中央広場へと足を向ける。
視界が開けると、まず目に飛び込んでくるのは広場の中心にそびえ立つ女神エステラの石像だ。
その足元、泉の縁には老人たちが腰を下ろし、誰と話すでもなく、ただ虚ろな瞳で虚空を見つめている。
僕の知るゲームの時代より後に生まれ、このヴェルガの衰退と共に老いてきた人々なのだろう。
機会があれば昔話を聞いてみたい気もするが、今はまず、当面の職を探すことが先決だ。
揃いの軽装鎧をまとった兵士たちが、城の方角へ広場を横切っていく。
アイリシアの話を聞いた後では、彼らを見る目も少し同情的なものに変わってくる。
広場の外周には、ちらほらと屋台が並び始めている。
見渡す限り、出店しているのは三軒ほど。
客用の椅子を手際よく並べる串焼き屋。
その隣では、屋台ではなくカートを引いた小さな花屋が、色とりどりの花をディスプレイしている。
そして、そのさらに隣の店に、目が釘付けになる。
天蓋に躍る、「えすてらや」の文字。
脳内で「エステラ屋」と変換してみるが、やはり違和感は拭いされない。
所狭しと並べられているのは、大小様々な木彫りの像だ。
中でもひときわ目を引くのは、屋台の脇に鎮座する巨大な一体。
優に僕の背丈ほどはある。
元の世界にも仏具店はあるが、神仏の像を路上販売、それも屋台で商う光景は見たことがない。
何より、商品である女神像はどれも作りが荒削りで、土産物の木彫りの熊と大差ないディテールだ。
広場の中央に立つ、あの荘厳な石像とは似ても似つかない。
看板がなければ、これが「ユーラ像」だと言われても信じてしまいそうだ。
僕が物珍しげに屋台を眺め続けていると、店主らしき人物がこちらに気づく。
黒いスラックスにベストを合わせた、男装の女性だ。
彼女は静かに手招きをする。
一旦周囲を見回すが、どうやら間違いなく僕に向けられたものらしい。
促されるまま、屋台へと歩み寄る。
「何か、お気に召すものはおありですか?」
どこか気だるげな、アンニュイな響きを含んだ声だ。
「すみません、物珍しくて、つい。女神像を屋台で売っているのは初めて見たものですから」
答えになっていない返答だが、言外に「買うつもりはない」というニュアンスを込めたつもりだ。
しかし店主は、僕の魂胆に気づいた風でも、落胆した風でもなく、ただ淡々と言葉を続ける。
「さようでございますか。本当は店を構えたいのですが、なかなかそうもいかず、こうして屋台で商いをさせていただいております」
失礼ながら、これらの像で生計が成り立つとは到底思えない。
「これは、その……どういう……」
言葉に詰まる僕を、店主は意に介する様子もなく、静かに問い返す。
「どういう、とは?」
正直なところ、この像の用途が皆目見当もつかない。
僕の目には粗末な土産物にしか映らないが、女神エステラがヴェルガゆかりの神だという話は聞いたことがない。
かといって、神棚のような場所に祀って朝夕に祈りを捧げる対象とも思えない。
一体、客はどんな思いでこれを買っていくのだろうか。
そもそも売れるのだろうか。
だが、それを単刀直入に尋ねるのは、さすがにためらわれる。
「いえ、どういう謂れのある品なのかな、と。何かしら……教団のお墨付きがあったり、ヴェルガの名物であったりとか、そういう……」
僕の言葉に、店主は口元を緩める。
「これは手前どもの奉仕、とでも申しましょうか。エステラ様のために行なっております」
店主はまっすぐな眼差しで僕を見つめる。
「こうしてエステラ様の像を手に取っていただき、信仰を広める。そういう想いでこうして微力ながら、像を売るという形で布教活動をさせていただいております」
その想いを商売にするのか、と思ってしまう。
「それに、エステラ様のお顔が、とても好きなのです。その魅力を少しでも広めたいとも思っております」
推し活か。
心の中で、僕はそう呟く。
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