エルフが魔法の歴史を語る #7

朝食後の紅茶が立てる穏やかな湯気の向こうで、僕はさっきから頭の片隅に引っかかっていた疑問を口にする。


「先ほどルネサンスという言葉が出ましたが、それは何のことですか?」


アイリシアは口をつけていたカップをわずかに傾け、その向こうから僕に目を向ける。


「ああ、知らないのかい?」


カップをソーサーにことりと置き、芝居がかった仕草でもったいぶるように間を置く。


「魔法の大発展期のことだよ」


彼女の瞳が、遠い昔を懐かしむようにきらきらと輝く。

その表情は、僕の目には少しうっとりしているようにすら映る。


「アルマが術式を確立して、魔法を使える者が爆発的に増えたんだ。エルフだけじゃない、他の種族にも一気に広がっていったからね」


身を乗り出し、熱っぽく彼女は続ける。


「それに、術式という概念が生まれたことで、ありとあらゆる試みがなされたんだ。術式は、いわば属性の流れを制御するための案内図のようなものだ。流れをこっちに向けたら? ここで分岐させ、あちらで合流させたら? そんな試行錯誤が、無限にできるようになった」


彼女は、テーブルの上を指でなぞり、複雑な模様を描いてみせる。


「その成果が共有され、別の誰かの視点が加わることで、また新たな成果が生まれる。そうやって属性の流れに関する発見や知見が、次々と生み出されていった。その時代を『ルネサンス』と呼ぶんだよ」


彼女はきっと、根っからの魔法好きなのだろう。

今の説明も、少し早口だった気がする。

好きなものの話になると途端に饒舌になる、アレだ。


「その頃、どれほどの魔法が生まれたんですか? 僕が知っているのは百種類くらいですが、その口ぶりだと、そんな数では収まらないように聞こえます」


僕の言葉に、アイリシアは心底意外だと言わんばかりに、少し眉を吊り上げる。


「そんなに知っているのかい?」


ゲームで僕が知っている魔法は、確かにそれくらいの数になる。

魔法には形状や発動効果を表す前半部分と、属性や効果対象を表す後半部分を組み合わせた命名規則がある。

「アロー・エレクトロ」は風属性の雷の矢で、「スフィア・フレア」は球状の炎。

「スフィア・エレクトロ」もあれば、つららを降らせる「ストライク・アイシクル」もある。

基本となる要素の数はそこまで多くないから、組み合わせの総数を覚えられないわけではない。


「おそらく、戦闘に使うごく基本的なものだけだと思います」


僕は一応謙遜する。


「まあ、さっきの質問に答えるなら、詳しい数は私も知らない。でも、数というよりは、適用範囲が大幅に広がった、という方が正確だね」


「範囲、ですか?」

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