この世ならざるものを見る #4

アイリシアは結局、僕の分のステーキまで綺麗に平らげる。


食事を終えると、彼女は手早く食器を片付け始める。


空になった皿に手のひらをかざす。

皿が宙に浮いた後、ぷるんと大きな水玉が現れ、その中で食器がゆらゆらと泳ぎ出す。

やがて水玉を流し台へ捨てる。


今度は食器が風の中で踊り、揺蕩うように運ばれ、キッチンの棚へ静かに、そして整然と着地する。


僕はただ、その一連の光景を呆然と眺めていただけだ。


「さて、昼間に話したものを見せてあげよう」


後片付けを終えたアイリシアが、くるりと僕に向き直る。

その瞳には、何かを探るような、あるいは期待するような色が浮かぶ。


「『この世ならざるもの』ですよね」


確認するように僕が言うと、アイリシアは静かに頷く。


「うん。君なら、何か知っているかもしれないからね」


アイリシアに促され、僕は二階の奥まった部屋へと向かう。


玄関から漏れる魔法の灯りが、階段や廊下をほのかに照らしている。


彼女が開けた扉の先から、ひんやりとした空気が流れ出てくる。


そこは物置のようだ。

ありとあらゆるものが所狭しと置かれている。

永い時を生きてきたエルフのことだ。

きっとこの中には、国宝級の年代物も眠っているに違いない。


アイリシアは部屋に灯りを灯す。


そして、部屋の隅にある棚の一つを指差す。


「ここにあるのが、この世ならざるものだよ」


そこに置かれたものを見て、僕は息を呑む。


スマートフォンのような形状のつるりとした真っ黒な板。

異様に滑らかな質感を持つ、真っ白な剣。

奇妙な斑模様を描き、光の反射をねじ曲げるかのような光沢を放つ布。


そして、ワイヤーフレームだけで構成された書物。


「これが何かわかるかい?」


アイリシアが声をかけてくるが、僕は言葉を失い、ただ押し黙る。


「……大丈夫かい?」


長らく黙り込む僕を見て、アイリシアが心配そうに顔を覗き込む。


「……どう説明したらいいか分からないです。でも、これがどんなものかは、なんとなく分かります」


僕は喉から声を絞り出す。


これはおそらく、まだデータが完成していない、仮の状態のアイテムだ。


「この世ならざるものというか、まだこの世にあってはいけないもの、とでも言いますか」


「説明できる範囲でいい。これが何なのか教えてくれないかい?」


「これは……未完成のアイテム、だと思います」


「未完成?」


アイリシアは不思議そうに首を傾げる。


「これは、これからきちんとしたアイテムになる前の状態です。なんというか……今は見た目や性能も定まっていない、未完成なものだと思います」


「誰が作っているんだい? ミタスかい?」


このゲームのプロデューサーやクリエイターの名前は僕も知っている。

しかし、この世界の人々に対して、ゲーム制作者という概念をどう説明すればいいのだろうか。


答えに窮していると、「答えられないのかい?」とアイリシアが静かに問う。


「どう言えばいいか……。なんというか、僕がいた世界で、アストラル・オーブの物語を語っていた人たちです」


それが今の僕にできる精一杯の表現だ。


ここがゲームの世界であり、創作物であるという事実。


それを彼女に伝える言葉を、僕は持たない。


「たち? ……その人たちが、この世界にこれを送り込んでいるのかい?」


「……そうなる、と思います」


「邪神もかい?」


アイリシアの声の温度が、すっと消える。


その低い響きが、部屋の空気を凍らせる。

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