この世ならざるものを見る #1

城壁の上からアイリシアの家へと続く石畳の道を、僕らは並んで歩く。


この異世界で、この先どうやって生きていくのか。


そんな漠然とした不安と覚悟が入り混じった思考を巡らせながら、僕は黙々と足を前に進める。

隣を歩くアイリシアもまた、僕の沈黙を尊重してくれているのか、何も言わずに静かに前を見つめている。


家にたどり着き、中に入る。


薄暗い玄関で、アイリシアは慣れた様子で両手を軽く広げる。

すると、その手のひらの間に淡い光の粒が収束し、ふわりと宙へ舞い上がる。

光は天井近くに留まると、廊下全体を柔らかな、しかし電灯とさほど変わらない光量で満たす。


「スフィア・ルミナス、ですか?」


「……君は本当に詳しいね。まあ、元はそうだけど、術式を少しいじっているんだ。ホーミング属性をセットアップ属性に差し替えている。光のアライメントも少ない量で収束できるようにしているから、明るくなりすぎることもないんだよ」


アイリシアは少し得意げに説明する。


僕の知るスフィア・ルミナスは、本来ダンジョン探索などで使われる魔法だ。

光球を発動者の頭上に浮かべ、ホーミング属性で自動追尾させて周囲を照らす。


それを彼女は、家庭で使えるように設置型へと書き換え、光量も生活に適したレベルに調整している、ということだろう。


設置型とはいえ、そもそもスフィア・ルミナスは術者が任意に解除できる魔法なので、つけっぱなしで問題がないのだろう。


しかし、先ほどの紅茶を温める件もそうだが、魔法がこんなに応用が効くとは思ってもみなかった事だ。


「こういう生活に関わることに魔法を使うのって、一般的なんですか?」


「一般的かと聞かれると、どうだろうね。使える者は使っているよ。さっきの肉コーナーの店員もそうだ」


「……どういうことですか?」


アイリシアはスタスタとダイニングへ入っていく。


「彼女は元は冒険者だったんだ。でも膝に矢を受けてしまってね。廃業したんだよ。それで、あそこで働き出したんだけど、肉を解体したり切り分けたりするときに、包丁に付与魔法をかけているんだ」


なるほど、あの女性が巨大な肉塊を鮮やかに切り分けていたのは、腕力だけでなく魔法の恩恵もあったわけだ。


「でも、自慢になるけどね。私ほど精密に属性の流れを制御できるメイジには会ったことがない。ここまで普段から魔法を使っているのは、私ぐらいかもしれないね」


アイリシアはダイニングでも同じように魔法を使い、部屋を明るく照らす。


ここまで魔法を使いこなすのがアイリシアくらいだと聞いて、逆に少し安堵する。

この世界の住人全員がこんなレベルだったら、僕の居場所なんてどこにもない。

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