エルフとショッピングに行く #6
食料品店を後にし、手提げ袋と買ったばかりの服を抱え、僕らは家路につく。
あたりはとっぷりと日が暮れ、街は夜の帳に包まれている。
ふと何気なく空を見上げ、僕は思わず息を呑む。
この世界には、月がそもそもない。
その代わり、月明かりなど不要なほど、信じられない数の星々が夜空一面に瞬いている。
そして、空には雲一つない。
この世界の水脈は奈落から汲み上げられた水で成り立っているため、基本的には雨という概念がない。
属性の暴走で突発的に雨が降ったり嵐が起きたりはするものの、天候そのものは固定されているのがこの世界の理だ。
だから月にも雲にも邪魔されず、ただ純粋な星あかりだけが、この世界を照らしている。
ディスプレイ越しでは決して感じることのできない、圧倒的な光景。
その美しさに、僕は思わず立ち尽くす。
「こんなに星があるんですね」
感嘆の声を漏らす僕に、アイリシアはさも当然というように空を見上げる。
「そうか、君の世界では、星があまり見えなかったんだね」
「それもありますが、見えるところに行っても、ここまでの数の星はないです」
銀河が天を覆い尽くすように広がり、空そのものが内側から光を放っているような、そんな幻想的な光景だ。
「エステラ様がこの星々を運行しているんだ」
その言葉を聞くと、女神エステラの力がどれほど壮大で絶対的なものなのか、改めて思い知らされる。
呆然と空を見上げ続ける僕に、アイリシアが声をかける。
「少し寄り道をしようか」
そう言って歩き出した彼女の背中を、僕は慌てて追う。
「少し」と言いながら、実際には十分ほど歩いただろうか。
アイリシアに導かれ辿り着いたのは、街を囲む城壁の上へと続く石造りの階段だ。
見張りらしき人影はなく、誰でも自由に立ち入りできるようだ。
アイリシアは何も言わずに階段を登り始める。
階段は四人ほどが並んで歩ける幅があり、思ったよりも広い。
城壁の上の通路もそのぐらいの幅で、戦の折には兵士たちがここで弓を構え、物資を運び、時には剣を振るうのだろう。
しかし今は、戦の緊張感など微塵もなく、先客のカップルが寄り添いながら街の外の夜景を眺めており、穏やかな空気が流れている。
登りきった通路の上から見渡す景色は、街中から見上げたものとは比較にならない。
高さもさることながら、何ものにも遮られることのない広大な視界が、この世界の夜空の壮大さを一層際立たせている。
視界の端から端まで、地平線の彼方から向こうの彼方まで、星々がびっしりと空を埋め尽くしている。
この大地が、文字通り天に抱かれているのだと実感する光景だ。
ユーラが天に焦がれた気持ちもわかる気がする。
「すごい……ですね」
言葉を失う僕を見て、アイリシアは満足げな顔をする。
元の世界では天体観測になど少しも興味を惹かれなかったというのに、この世界の夜空は、いくら見ていても見飽きることがない。
しばらく無言で星空を眺めていたが、やがてアイリシアが「そろそろ帰ろう」と僕に促す。
「明日も明後日も、この夜空は見られる。この先ずっと見られるんだよ」
……確かにその通りだ。
僕はこの世界で生きていくのだから。
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