エルフとショッピングに行く #5

必要なものを買い揃え、僕らは会計へと向かう。

出口付近には、支払いを待つ客の列が三列ほどできている。


レジのような機械はなく、店員が客の品物を一つ一つ確認してはメモを取り、紙と筆で計算している。

おかげで列の進みは遅く、かなり混雑しているが、並んでいる客は皆、それがいつものことだとでもいうように、のんびりと順番を待っている。


「あれは、大変な仕事ですよね」


僕の視線の先を追い、会計係の姿を捉えたアイリシアが静かに頷く。


商品に値札の類は見当たらない。

つまり、店員は全ての商品の価格を暗記しているということだ。

肉のように量り売りの品は、その場で手早く価格を算出しなければならない。

メモした金額を合計し、金を受け取り、釣り銭を返す。

その一連の作業のどこにも、ミスは許されない。


「大変な仕事だけど、当然それなりの給料はもらっているよ。行政官を除けば、この街で一番稼げる仕事だね」


彼女の言葉を聞いて、僕も早々に職を探さなければいけないな、と改めて思う。


元の世界で僕は、広告関連の営業職に就ている。

しかし、この世界でそのスキルが活かせるとは到底思えない。

そもそも広告という概念があるのかも不明だし、先ほどの服屋での出来事を考えると、僕が知る営業のノウハウはここでは通用しないだろう。

もし広告という文化を根付かせようにも、衰退しつつあるここヴェルガは、その試みにはあまりに不向きな場所だ。


異世界転生といえば、元の世界の知識や経験で無双するのが定番だが、僕に限っては、そう都合の良い展開は望めそうにない。

そのあたりは潔く諦めて、何か新しい仕事を探すのが現実的だろう。


やがて、僕らの会計の番が来る。


店員は慣れた手つきで品物を確認し、金額をメモしていく。

肉の包み紙に書かれた「さろ 1003」の文字を目にした店員は、一瞬ギョッとした顔でこちらを見る。

しかし店員は何も言わず、淡々と会計を進めていく。


この世界でも一キロのサーロインというのは、やはり異常な量なのだろう。

その反応を見るに、アイリシアとあの肉屋の店員との間には、肉の厚さについて、僕の知らない何らかの合意があるのかもしれない。


告げられた金額は、百八十四エルマ。


エルマはこの世界の通貨単位だ。

大陸の通貨はユーロのように国を跨いで統一されている、という設定である。


アイリシアが銀貨を二枚差し出すと、店員から十数枚の銅貨が返ってくる。


実際にお金がやり取りされる光景を見るのは、これが初めてだ。

ゲーム画面では単なる数字でしかなかった所持金が、こうして硬貨として流通しているのを見ると、なんだか妙に感心してしまう。


銀貨二枚で釣り銭が来るということは、銀貨一枚が百エルマだろう。

返ってきたのは銅貨十六枚か。


僕は一エルマたりとも持っていないが、この世界の金銭感覚は、早急に身につけなければならない。


会計を終えたアイリシアが懐から取り出すのは、どう見てもエコバッグにしか見えない手提げ袋だ。

彼女が手早く品物を詰め終えたのを見計らい、僕はその袋をすっと受け取る。


「持ちます」


そう言って、半ば強引に。

これくらいの荷物持ちでもしなければ、本当にただの穀潰しになってしまう。

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