エルフとショッピングに行く #3
アイリシアは手間は取らせないという言葉通り、手際よく僕の体に何着か服を当ててサイズを確認すると、あとは全く同じデザインの簡素なシャツと下着、ズボンを三着ずつ手にとって、すぐに会計へと向かう。
服選びは、本当に五分もかからずに終わる。
元よりこの店には凝った意匠の服など置いていない。
選ばれたのは、ごくありふれた地味な普段着だ。
こうしてモブは生まれるんだな、と感心してしまう。
アイリシアが支払いを済ませると、アパネロが興味深そうに僕に声をかけてくる。
「おまえさんは、どこから来たんだい?」
その問いに、僕は言葉を詰まらせる。
どこから来たのか、それは今の僕にとって最も答えるのが難しい質問だ。
異世界から、と正直に言えるはずもない。
僕が返答に窮するのを見計らったかのように、アイリシアが割って入る。
「それは言えないんだよ。……ここだけの話だけど、彼は私が匿っているんだ。実は彼が血まみれだったのも……いや、なんでもない」
神妙な表情を作り、人差し指をそっと唇に当てる。
アパネロは顔を引きつらせて、曖昧な笑みを浮かべる。
僕も、きっと同じような顔をしているに違いない。
「次は、血まみれの服も仕入れておいてもらえるかい?」
アイリシアの冗談めかした言葉に、アパネロは声を立てて笑う。
「結局あなたから仕入れることになりますよ」
何気に物騒なことを言う。
紙に包まれた服を受け取り、僕はアパネロに軽く会釈をして店を出る。
夕闇が迫る道を歩きながら、僕はアイリシアに尋ねる。
「ありがとうございます。……でも、あんなことを言ってよかったんですか?」
「ん? ああ、匿っている、という話かい?」
アイリシアはこともなげに答える。
「そういう噂が広まれば、君のことを詮索する者もいなくなるだろうからね」
僕が面倒事に巻き込まれないように、わざとあのような言い方をしたのだろう。
内緒話という形で情報を流すことで、噂が広まることまで計算しているに違いない。
「噂になりますか?」
「なるよ。彼は商人だからね。内緒話の甘美さをよく知っている。客相手に使わずにはいられないんだ」
その言葉には妙な説得力がある。
僕もかつて売り歩く仕事をしていたからわかる。
「ここだけの話ですが」「あなただから特別に教えますが」という言葉の魔力は、確かに人を惹きつけるのだ。
元の世界ではなかなか難しくなった手法であるが、この世界ではまだまだ健在のようだ。
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