エルフとショッピングに行く #2
夕暮れの街路を、僕とアイリシアは並んで歩く。
やがてアイリシアに促され、僕らは「あぱねろのふくや」と看板に書かれた店の前に到着する。
「三着ぐらいでいいかい?」
店に入る前に、アイリシアが尋ねてくる。
ついさっき、見るからに上等なマナタイトのローブを買ってもらったばかりだ。
その上さらに三着も用意してくれるということは、しばらくは彼女の世話になっていい、というメッセージなのだろうか。
「十分です。……あの、すみません。今は遠慮する余裕もないので、ご好意に甘えさせていただきます。それと、今夜はアイリシアさんの家に泊めていただいてもよろしいでしょうか」
僕の言葉に、アイリシアはキョトンとした顔をこちらに向ける。
「どこかで野宿でもするつもりだったのかい?」
その声には、からかうような響きが混じっている。
「いえ、そういうわけでは……」
慌てて首を横に振る僕を見て、アイリシアは楽しそうに小さく笑う。
「自分で言うのもなんだが、こう見えて私は裕福なんだ。人一人を養うぐらいの余裕はある。だから遠慮はいらないよ。それに、君の話はとても興味深い。むしろ、こちらがお金を払ってでも聞きたいくらいだ」
その言葉に安堵しつつも、もう一つ、どうしても確認しておきたいことがある。
「それと……僕らは、その、男女ですので。そういう噂とか……」
僕が言い淀むと、アイリシアはフンと鼻で笑う。
「そんなこと誰も気にしないよ。それと、襲えるものなら襲ってみるといい」
昼間に見た、首のないハウリングウルフの姿が脳裏をよぎる。
冗談に聞こえないのが恐ろしいところだ。
服屋の中に入ると、年配の男性が黙々と床を掃いている。
この店の主、アパネロだろうか。
もう店じまいを始めているのかもしれない。
僕らに気づいたアパネロは、一瞬ムッとした表情を浮かべるが、アイリシアの姿を認めると、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべる。
「おや、アイリシアさん。珍しいねえ」
店内を見渡すと、並んでいるのは男性用の服ばかりだ。
サイズもデザインも、僕のような成人男性向けのものしかない。
アイリシアがこの店に足を運ぶことがないのも頷ける。
「やあ、彼の着る服を買いに来たんだ」
アイリシアが僕を指差して言うと、アパネロは「へえ?」とでも言いたげな顔で僕に視線を送る。
「私の客人だよ。ここへ来る途中でモンスターに襲われてしまってね。荷物を全部失くしてしまったんだ」
アイリシアが、僕の事情をうまくぼかして説明してくれる。
「ほう、モンスターに。……そういえば。もしかして、血まみれの男ってのは、この人のことかい?」
どうやら昼間の件はすでに広まっており、僕は「血まみれの男」という不名誉な二つ名をもらってしまったようだ。
「そうだよ。彼が血まみれの男だよ」
アイリシアが、少し愉快そうに呟く。
「時間は取らせないから、服を買わせてくれないかい?」
「もちろんですとも」
アパネロは快く応じてくれる。
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