エルフにアストラル・オーブを語る #7
「君は、転生してきた、と言ったね」
「はい。そうだと思います」
「神話にも、転生についての言及がある。エステラ様の神託を受けた者は、たとえ戦いで命を落としても、あらかじめ用意された体にその魂を転生させて復活できる、と……。このことについて、君は何か知っているかい?」
アイリシアの言葉に、僕はゲームのシステムを思い浮かべる。
プレイヤーが倒されてもセーブポイントからやり直せる、いわゆる「コンティニュー」だ。
この世界の神話で語られる「転生」とは、あのシステムに対する解釈なのかもしれない。
しかし、「セーブ」や「ロード」という概念に、作中や設定集で明確な説明が与えられた記憶がない。
「転生」という言葉自体、目にした覚えはないはずだ。
モフモフが倒れた後、暗転した画面の向こうでどんなプロセスを経て復活していたのか。
それはプレイヤーである僕にも知る由もないブラックボックスだ。
それに、神話の通りだとすれば奇妙なタイムラグが生じる。
「あらかじめ用意された体」に魂が宿るなら、時間は死亡した時点からそのまま続くはずだ。
だが、ゲームではセーブした時点まで時間が巻き戻る。
……いや、待てよ。
セーブした時点でスペアの体が「保存」されていて、死んだ瞬間に時空を超えて意識だけが過去のスペアへ飛ぶ、というSF的な解釈も可能だろうか。
その場合、タイムパラドックスはどう処理されるんだろう。
考えれば考えるほど、いくつもの仮説が浮かんでは泡のように消えていく。
結局のところ、確かなことなど何一つ言えない。
「すみません。それについては、何も知りません」
「うん。……では、君自身が一度死んで、この世界に転生してきたこと。それは、エステラ様と何か関係があると思うかい?」
その問いには、はっきりと答えることができる。
「いえ、そこは関係がないと思います。むしろ、関係があるのなら、ぜひ一度お会いしたかったくらいです」
会えていれば、何か強力なチートスキルの一つでももらえたかもしれないのに。
アイリシアは、カップを傾け、静かに紅茶を含む。
「私は永い時を生きている。その間に、神話はずいぶんと姿を変えてきた。転生の件もそうだ。いつの間にか、付け加えられていたんだよ。そして今、君からエステラ様から授かるという力の話を聞いた。それは私の知らない、初めて耳にする話だ」
アイリシアの言葉に、僕は黙って頷く。
「一方で、転生してきたはずの君が、転生とエステラ様との関係は知らない、と言う。……私は昔からその転生の件だけは腑に落ちなかったんだ。エステラ様が、人の命の理に直接関わるような力を行使する、ということに違和感を覚えていた」
アイリシアの翡翠色の瞳が、僕を射抜くように見つめる。
「つまり、君が語っていることは、私の神話の解釈に反する部分がどこにもないんだ。転生のことを知らないというのは、逆に私にとって素直に飲み込める話なんだよ」
アイリシアは大きく息をつき、ふっと表情を和らげる。
憑き物が落ちたような顔だ。
「話の腰を折ってすまないね。物語の続きの話をしよう。……どこまで話したかな?」
僕も記憶を辿るが、どこまで話したかすぐには思い出せない。
アイリシアは急かすことなく、静かに僕の言葉を待っている。
「ええと……。あとはモフモフがオーブの安置所でガレイドに追いつき、最後の対決に臨み、モフモフがガレイドを退け、無事アストラル・オーブは奪われずに済みます。それで終わりです」
「今、こうしてこの世界が安定して存在しているということは、そうなんだろうね」
アイリシアは安堵したように、深く長い息を吐く。
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