エルフにアストラル・オーブを語る #5

「話は少し前後しますが──」


僕はアイリシアに向き直り、アストラル・オーブの物語を語り始める。


このゲームの最終目的は、邪なるものガレイドを追い、オーブの強奪を阻止することだ。


だが、そこはオープンワールドのお約束で、プレイヤーは寄り道し放題、世界中を思うままに冒険できる。


どれだけ道草を食っても、ガレイドは文句ひとつ言わず、いつまでも僕らを待っていてくれる。


実に忍耐強いラスボスだ。


しかし、ガレイドを追う旅そのものは、さほど長いものではない。


奈落に安置されたアストラル・オーブは厳重な結界で守られている。


そこへ至る螺旋階段の入口もまた、場所の秘匿と結界によって二重に守護されている。


「螺旋階段を下るには、入口の場所を特定し、かつ結界を解くという二つの課題をクリアする必要があります。そのためにガレイドは、二つの聖遺物──ホーリーレリックを狙うことになるんです」


一つは、この世界にある全てのウェイポイントを指し示す「オムニ・ガイド」。


もう一つは、結界を無効化する「コンバージ・ジェム」。


オムニ・ガイドはサザールの王宮に、コンバージ・ジェムはユーラ教団の総本山にそれぞれ安置されている。


プレイヤーはどちらから攻略しても構わないが、まずはオムニ・ガイド強奪のくだりから話すことにする。


オムニ・ガイドが指し示すウェイポイント。


ゲーム上では、いわゆるファストトラベルの移動先だ。


有名なRPGなら移動魔法があったりするが、オープンワールドのゲームではファストトラベルの方が一般的だろう。


一度訪れた場所にフラグが立ち、以降はマップから指定するだけで、移動時間をすっ飛ばせるあれだ。


作中のモフモフは徒歩なり乗り物なりで移動しているのだろうが、モニターの前の僕にとっては、ロード時間を挟んで一瞬で到着する便利なシステムでしかない。


設定では、オムニ・ガイドはミタスがこの世界を創生した際、作った場所を記録したアイテムということになっている。


ゆえに、この世界の全てのウェイポイントが網羅されている。


さらに通常解放されるはずもないウェイポイントも記録されており、奈落の入口ももちろんそこに含まれる。


「宝物庫からオムニ・ガイドを強奪したガレイドと、城内の混乱に乗じて通用口から侵入したモフモフは、サザール城の庭園で対決します」


このバトルは、僕がアストラル・オーブで特に気に入っている名場面の一つだ。


数多の兵士に追われながらも、圧倒的な力で彼らを薙ぎ倒していくガレイド。


その猛攻の中、ガレイドに肉薄しようと必死に食らいつく緊張感は格別だ。


無双系ゲームの雑魚敵から見たプレイヤーキャラは、きっとこんな理不尽な強さなのだろうと、妙に納得したことを鮮明に覚えている。


衛兵や近衛兵、さらには王宮魔術士までも巻き込んだ大混戦となるが、あと一歩のところでガレイドを取り逃がしてしまう。


そこまで話すと、アイリシアがハッとしたように目を見開く。


「それは、心当たりがあるね……。確かに百年ほど前、王宮に盗賊が入ったという噂が流れた。だが、すぐに代官が否定してね。『王宮を狙う盗賊などいるはずがない』と、当時はすぐに納得したんだ」


アイリシアの言葉に、今度は僕の記憶が呼び覚まされる。


サザールにいるNPCが、彼女と全く同じことを言っていたのだ。


「王宮に盗賊が入って何かを盗んだという噂があるが、そんな馬鹿な話があるわけがない。死ににいくようなものだ」と。


ガレイドとの対決の後、街で聞ける噂話だ。


僕の知る物語と、アイリシアの記憶。


二つがここで、確かに重なる。


少なくともガレイドのことは、この世界で実際に起こった史実だと考えていいのかもしれない。

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