エルフにアストラル・オーブを語る #4
アストラル・オーブの世界は球体ではなく、平面だ。
そして、その周りを星々が巡る、天動説の世界。
世界は二層構造を成しており、人々が暮らす上層の世界があり、その下には「奈落」と呼ばれる、邪悪なものが棲む下層の世界が存在している。
アストラル・オーブとリミナル・オーブは、その奈落の中心部に安置されていると語られている。
僕がそこまで話すと、アイリシアは静かに頷き、彼女が知る奈落のイメージを補足するように口を開く。
「奈落にはあらゆる歪なもの、穢れたもの、悍ましいもの、忌まわしいものが集まっているという。あまりにも禍々し過ぎて、人を寄せ付けない場所とされている。ある意味、オーブを安置する場所として、奈落ほど相応しい場所はないのかもしれないね」
彼女の言葉に、僕は同意を示すように頷く。
「物語では、オーブの安置所は『天還の大瀑布』の直下に位置することになっています」
僕の言葉に、アイリシアは眉ひとつ動かさず、静かに耳を傾けている。
天還の大瀑布のことも、彼女は当然のように知っているようだ。
この世界は平面であり、その端は器のように緩やかに湾曲して稜線を描いている。
そして、その稜線の低いところから奈落へと、海水が滝のように流れ落ちる構造だ。
世界には奈落へ落ちる滝が十二箇所あり、まるで時計のように配置されている。
とは言え、それは一方的に流れ落ちるわけではない。
奈落を巡った海水はオーブの安置所へと集まり、オーブが生み出す属性極の力によって、奇跡のように調和した四つの属性の流れが、今度は水を再び上層へと押し上げる。
天に向かって水が逆流するその場所こそが、天還の大瀑布と呼ばれる。
そして、汲み上げられた水は上層で最も高いドランティ山の山頂から川となり、世界中に水を供給する。
それがこの世界の水脈だ。
「属性極によって生まれる属性の流れが、水を上層に押し上げる……」
アイリシアは僕の言葉を、一言一句確かめるように反芻している。
「……信じられない話だね」
「アストラル・オーブが奪われてはいけない、最大の理由がそこにあります。属性の流れが変わるのも問題があるみたいですが、もっと実質的に属性極がズレれば水脈が止まります」
アイリシアは低く唸る。
「私は、奈落や天還の大瀑布の話は知っていたけど、存在を信じていなかった。上層を賄うほどの水が、滝のように昇っていくなど、信じられるはずもない。でも属性極が生み出すと聞くと、確かにあり得ない話ではないと思えてくるね」
「星の運行の操作とは違うんですか?」
「あの御力は、実際にこの目で見たからね」
確かにそうだ。
天還の大瀑布は、アイリシアがまだ見たことのないものであるため、彼女がそれらを迷信だと考えても不自然ではない。
「ともかく、ガレイドはオーブの安置所を目指します。それを食い止めるのが、モフモフの使命というわけです」
アイリシアは、さらに興味をそそられたように身を乗り出してくる。
「奈落へ行く方法など、あるのかい?」
「その天還の大瀑布を取り囲むように、螺旋階段が設置されています。ガレイドはそこを降り、オーブの安置所へと向かうんです」
「……そんなものが存在するとはね」
アイリシアは小さく呟き、わずかに眉根を寄せる。
「しかし、なぜそんな螺旋階段があるんだい? 滝を取り囲むということは、滝ができた後に作られたものだろう。君の話では、二つのオーブが貸し与えられたことで滝ができた。ユーラが境界を作った後で、奈落と上層を行き来する必要があるのかい?」
それは、ゲームの都合としか言いようがない点だが、もっともな疑問だ。
設定上、ユーラは境界を作り、上層を人類の、奈落を禍々しい者たちの住処として分けたはず。
互いに干渉しないようにわざわざ分けたのに、行き来する理由など確かにない。
「僕にも理由は分かりません。ただ、物語の中では、その螺旋階段を作ったのは創世の女神ミタス、ということになっています」
その一言で、アイリシアは合点がいったように頷く。
この世界を創世した女神ミタス。
そして、エステラとユーラの二柱の女神が、その運営を任されている。
ゲームの設定では、ミタスは「創る」だけの神で、「活かす」という概念に欠けているとされている。
この世界を運営しているエステラとユーラには興味がなく、諍いを放置しているのも、それが原因だ。
そんなミタスが作った螺旋階段。
そこに理由があるのかどうかは怪しいところだ。
そんなミタスの性格を、アイリシアも知っているのだろう。
「そういうことなら仕方がないね」
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