エルフにアストラル・オーブを語る #3

ややあって、アイリシアは努めて冷静な声で問いかけてくる。


「その……モフモフというのは、どういう人物なんだい?」


「モフモフは元はファイターですが、後にダークナイトへとクラスチェンジします。彼女自身のバックグラウンドに関しては、物語では何も語られません。僕が知っているのは、あくまで神託を受けた後の活躍だけです」


プレイヤーキャラはキャラクリで自由に作成できるので、物語上で語られるような詳細な背景はほとんど存在しない。


ジョブとしてのダークナイトは、自身のHPを削って強力なスキルを繰り出す攻撃特化型の上級職だ。


攻撃力は極めて高い反面、HPがゴリゴリ減っていくという、自傷的な特性を持つ。


ダークナイトで安定して戦うなら、敵の攻撃を受け流すパリィや、素早く回避するダッジといった、ダメージを受けずに戦うためのスキルがほぼ必須となる。


そのため、実質的にファイターとしての立ち回りの経験が求められる玄人向けのジョブだ。


また、ポーションなどの回復手段も重要になるために、所持金もゴリゴリ減っていく。


それがダークナイトの立ち回り方だ。


そして、この世界におけるジョブのシステムは二段階ある。


ファイター、ハンター、メイジ、プリーストなどは基本ジョブで、メニューから選べばいつでも変更することができ、それはジョブチェンジと呼ばれる。


対して、ナイト、セージなどの上級ジョブになることはクラスチェンジと呼ばれ、定められた試練を乗り越える必要がある。


上級ジョブは押しなべて性能がピーキーで、テクニカルな操作を要求される。


本来ならヌルいプレイヤーの僕が手を出すジョブではない。


それでも僕が、モフモフをダークナイトにクラスチェンジさせたのには理由がある。


ジョブ固有のアーティファクトとして用意された、露出度は少ないながらも全身を包むボディーコンシャスな黒ずくめの鎧が「なんかエロい」という、我ながら不純きわまりない理由からだ。


邪なるものがナイトなので、阻止するのがダークナイトだったらかっこいい、という厨二的な理由もある。


「エステラ様の神託を受けたものが、ダークナイトになるのかい?」


自分では気が付かなかったが、アイリシア的には釈然としないらしい。


僕も言われてみれば、そういえば、と思う。


女神の使徒が暗黒騎士というのは、確かにミスマッチだ。


しかし、真の理由を語るわけにはいかない。


先ほど真名を明かしてしまうという失態を犯したばかりだ。


これ以上、僕の品位に関わる情報を開示するのは得策ではない。


「旅の途中で彼女は自らの心の闇と向き合うことになります。その闇を受け入れることで邪なるものと対峙するんです。ある意味、彼女の高潔さからの選択です」


もちろんアストラル・オーブの物語中にそんな話はない。


ダークナイトにクラスチェンジするための試練のストーリーも、もっと違う話である。


しかし、咄嗟に出た出まかせとはいえ、いい理由だ。


オープンワールドの自由度の高い世界で、ロールをプレイするゲームの中の話なのだ。


僕の中の勝手な設定をモフモフに仮託するぐらい許されるだろう。


アイリシアは目を少しだけ見開く。


「……なるほど……」


ひょっとしたら感銘を受けたのかもしれない。


ともかく彼女は、モフモフを受け入れてくれたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る