エルフにアストラル・オーブを語る #2
僕は紅茶で口を潤し、話を戻す。
「アストラル・オーブが奪われる、というかオーブの位置がズレると、属性極がズレて属性の流れが変わり、世界の法則が乱れます。それを阻止するためにエステラが選ばれし者に神託を与え、アストラル・オーブを守ることになる。あらすじはこうです」
「うん、なるほど。……それでエステラ様の神託を受けたものはどういう人物なんだい?」
アイリシアの問いに、言葉に詰まる。
彼女の興味の焦点は、明らかにそこにあるのだろう。
それは僕がプレイしていたキャラクターに関わることであり、いささか厄介な問題を孕んでいる。
その解決策を考えるために、ひとまず当たり障りのないラスボスの話から始めることで、時間稼ぎを試みる。
「まず女神ユーラの神託を受けたもの、邪なるものはガレイドという名の青年です。彼は王都サザールの騎士団に所属していました。ナイトです」
彼の心が悪に染まったとか、病弱な妹がいる弱みに付け込まれたとか、そういった背景は一切ない。
むしろ騎士団に所属していたほどの強い正義感の持ち主であるが、ただ「神託を受けた」という理由だけで、使命としてアストラル・オーブを奪おうとする。
それがガレイドというラスボスだ。
彼は特殊なスキルを持たないが、全てのステータスが理不尽なほど高い。
女神ユーラがステータスの境界を引き上げた、という設定がある。
なので彼は平常でもプレイヤーキャラのカンスト値を超えたステータスを持っている。
そのため、正攻法で攻めてくるがなかなか勝てないという、厄介な敵だ。
僕も何度も敗北を喫し、結局攻略サイトを頼りに、星座の位置調整やアイテムの浪費で辛うじて勝利した記憶がある。
「女神エステラの神託を受けたものは……」
そこで言葉を切る。
「どうしたんだい?」
アイリシアが訝しげに僕の顔を覗き込む。
その純粋な眼差しが、かえって僕を追い詰めてくる。
「神託を受けたのは……『モフモフ』という女性です」
アストラル・オーブの主人公は、プレイヤーがキャラクタークリエイトで作る。
僕はキャラクリが可能なゲームでは、つい女性キャラクターを選んでしまうタイプの人間である。
しかも、これはオンラインゲームではないため、他人に見られる心配もない。
名前もかなり適当につけてしまっている。
今さら取り繕って、何か当たり障りのない、それらしい名前を考えていたが、咄嗟のことなので、脳裏には「ユフィ」とか「フローラ」とか、壊滅的にベタな名前しか思い浮かばない。
変な間が空いてしまった焦りから、僕はつい、自分のつけた名前をそのまま口走ってしまう。
アイリシアは明らかに何か言いたそうな顔で僕を見つめているが、言葉を飲み込んだようだ。
やはり「モフモフ」という名前は、この世界においても微妙な響きを持つらしい。
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