エルフにアストラル・オーブを語る #1
「アイリシアさんの知識がどの程度か分からないので、すでに知っていることを話してしまうかもしれませんが……」
僕がそう前置きすると、アイリシアは「それも織り込み済みだ」とでも言いたげな顔で、静かに頷く。
「さっき話した通り、僕が知っているのは女神エステラの導きによって、邪なるものからアストラル・オーブを守る、という物語です。タイトルもそのまま『アストラル・オーブ』でした」
僕は記憶を頼りに、物語の導入部分を語り始める。
「僕の知る物語では、まず二つのオーブが存在します。天を象徴するアストラル・オーブと、地を象徴するリミナル・オーブ。この二つが対になることで属性極が生まれ、全ての属性の力が収束する場所となります」
アストラル・オーブの世界では、属性という概念がシステムの根幹を成している。
世界に存在するすべて、すなわち人、モンスター、アイテムは、風、水、火、土の四属性の影響下にある。
属性はこの世界に常に流れており、メイジはその属性の流れを利用して魔法を発動する。
属性極は流れの終着点で、その収束が属性の流れを生む。
それが魔法だけでなく、この世界のあらゆる自然現象の源になっている、というのがゲームの基本設定だ。
「ほう、早速興味深い話が出てきたね。アストラル・オーブとリミナル・オーブが属性極を生むのかい?」
アイリシアは僅かに眉を動かす。
「物語の中では、そうなっています」
「属性極の存在は昔から語られているけど、実際に観測されたことはない。君の話だと、属性極は存在するということになっているんだね」
アストラル・オーブとリミナル・オーブの存在は、アイリシアも承知しているようだ。
しかし彼女の口ぶりからすると、属性極はより具体的な学術的仮説として扱われているらしい。
「属性極が実際に何なのかは、僕も詳しく知りません。ただ、この世界を動かす力が最終的に辿り着く場所、という認識です」
「うん、私の認識もそうだ」
アイリシアは静かに同意する。
「物語では、アストラル・オーブは女神エステラが、リミナル・オーブは女神ユーラが、それぞれこの地に貸し与えたことになっています。その女神ユーラがアストラル・オーブを手に入れようと、ある人物に神託を与える。その神託を受けた者が『邪なるもの』と呼ばれることになります」
女神ユーラ。
彼女は境界を司る女神だ。
大地と天、そして「奈落」と呼ばれる世界の隔たりを維持する存在。
しかし、その胸の内には境界のない天の広大さへの尽きぬ憧れを秘めている。
その願望を満たすため、見込みのある者に神託を与え、アストラル・オーブを奪うことで天を手中に収めようと画策するのだ。
「うん、他人のものを盗む手伝いをするのは、確かに邪なことだよ。しかしユーラもユーラだ。関係のない人に神託を下しては、その度に失敗している。全然懲りないんだ」
女神に対して「性懲りもない姉ちゃん」ぐらいの感覚を抱き、僕は思わず口元を緩める。
「アイリシアさんが知る限り、女神ユーラは過去に何回くらい、アストラル・オーブを奪おうとしたんですか?」
僕の問いに、アイリシアは表情を引き締める。真剣な面持ちだ。
「……私が知る限り三回だね。ただ、それは星の運行の操作を目撃した回数であって、実際のところ、それだけなのかは分からない。ユーラとは関係なく操作されたのかもしれない。私はエステラ様の神託を受けたわけでもないから確証はないし、私が見過ごしている可能性もあるから、実際はもっと多いのかもしれない。そもそも、私が生まれる前から同じようなことを繰り返していた可能性だってある」
「三回……」
ゲーム本編に、過去何度もそんな事件があったという設定はあっただろうか。
もしかすると、続編のために後付けされた設定なのかもしれない。
僕の知る設定にはない話だし、アイリシアでさえ正確なところを知らないのなら、僕がここで考えても答えは出ないだろう。
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