ヴェルガを訪れる #6
アイリシアは遠い過去の空を見て語る。
「星が、ものすごい速度で巡っていたんだよ。全ての星が流れ星みたいに尾を引いてね。ほんの一瞬の出来事だ。空一面が光に溢れている。私はたまたまその場面に出くわしたんだ。その一瞬が終わった後も、言葉を失って、ただ空を眺めていた。その時に、エステラ様の御力が本物だと知ったんだ」
しばらくその光景を思い浮かべるように間を空け、僕に向き直る。
「最後に見たのは、百年ほど前だよ。きっと君の知る物語の頃だ。このヴェルガができて以降、星の運行の操作を見たのはその時だけだからね」
僕がヴェルガのことを知っているなら、確かにそういうことになる。
そして、そのとき星を動かしたのは、プレイヤーとしての僕かもしれない。
アイリシアは大きなため息をつく。
「たった百年前だよ。自分の目で見た者はもういないと思うけど、親や祖父から話を聞いた者はいるはずだ。それでもなお、星の運行の操作は迷信だと思われている。不思議で仕方ないんだ」
僕からすれば、魔法自体がすでに超常的だ。
もし元の世界で「魔法は実在する」などと言われれば、間違いなく迷信だと一蹴するだろう。
しかし、この世界の人々は、その魔法という超常現象を当たり前のこととして受け入れている。
僕もすでに受け入れている。
それなのに、星の運行の操作という、同じく超常的であるはずの力を「迷信」と捉える感覚は、僕には少し奇妙に思える。
でも彼らにとってそれが「理解を超えた力」ならば、迷信として片付けてしまうのも、ある意味では納得できるのかもしれない。
「ところで私はエルフだ。エルフのことは知っているんだろう?」
改めてそう問われ、僕は一瞬言葉に詰まる。
「もちろんです。長命な種族ですよね」
もっと正確に言うなら、アストラル・オーブのエルフは長命ではなく、文字通り不老だ。
事故などで命を失うことはあるが、病気や寿命で死ぬことはない。
ゲームの中には一万歳を超える若々しいエルフさえ登場する。
僕の返事に、アイリシアは安心したように頷く。
二千年や百年という時間をさらりと口にしたので、僕がどう受け取るか不安だったのかもしれない。
「まあ、それはいいとして、君の話が聞きたいんだ」
彼女は身を乗り出し、熱っぽい視線を僕に向ける。
「君の知っている物語はどういう話なんだい? 百年前に邪なるものが現れたときの話なんだろう? 私は神託を受けたわけじゃない。何があったのかは知らないんだ」
畳み掛けるように、彼女は言葉を紡ぐ。
「邪なるものが退けられたのは、今こうして生きていることでわかる。そして君は星の運行の操作を当たり前のようにとらえている。……まだ聞いていないけど、君の話の信憑性は増しているよ」
アイリシアは真剣な表情を崩さない。
その真剣な眼差しに、僕は少し気圧される。
嘘をつくつもりはないが、僕の知識がこの世界の史実と一致するかは保証できない。
さっき僕の知らないこの世界の歴史が出てきたばかりだ。
「僕の知る話が、本当にあったことかどうかは分かりません」
思わず予防線を張るような言葉を口にすると、彼女はわずかに眉をひそめる。
「それはわかっている。話半分で聞くから、気にせず話せばいい」
彼女の真っ直ぐな瞳が、これ以上の言い訳を許さない。
僕は覚悟を決める。
僕の知る「アストラル・オーブ」の物語を、この世界の住人である彼女に語り始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます