ヴェルガを訪れる #3

やがて視界が開け、泉を中心とした広場に出る。


ゲームで見た、無数の屋台と人で賑わう光景の面影は今のヴェルガにはなく、人影もまばらだ。


広場の隅で数軒の屋台が営業しているものの、客がいるのは何らかの飲食店に数人だけで、賑わっているとは言い難い。


泉の縁には老人たちが腰掛け、何をするでもなく、ただぼんやりと虚空を見つめている。

僕の知る時代より後に生まれた彼らが、この街の衰退をずっと見守ってきたのだろう。


そして泉の中心には、女神エステラの像が厳かにたたずむ。

僕を導き、特別な力を授けてくれたかもしれない存在だ。

像の正面にある献花台には、いくばくかの花が手向けられている。


目の前の女神像を見上げ、僕はアストラル・オーブの根幹をなすシステムを脳裏に描く。


女神エステラは星の運行を司る神だ。


プレイヤーはキャラメイクの際、炎竜座や水霊座といった、神獣をモチーフにした八つの星座から一つを選ぶ。


この星座が得意属性やステータスの成長率を決める。


そして、ゲーム内では時間経過で天球上の星座の位置が変わる。


自分の星座がどの位置にあるかによって、プレイヤーが受ける加護は変化する。


例えば、自分の星座が炎竜座なら、天頂にある時に経験値と攻撃力にボーナスが入り、炎属性の威力が格段に上がる。


その代わり、不得手な水属性にはさらに弱くなるため、戦う相手を選ぶ必要が出てくる。


逆に、天底に炎竜座があれば加護を全て失うが、相性の悪い属性の敵でも不利なく戦えるようになる。


さらには、天頂にある星座によって、この世界の在り方そのものも変わる。


岩獅子座が天頂にあれば、採集できる鉱石の質が高くなるといった具合に。


それほどまでに、アストラル・オーブでは属性や星の運行が重要な意味を持つ。


「気になるかい?」


何かを期待するような視線で、アイリシアが問いを投げる。


「ええ。実際に見ると、かなり大きいんですね」


ゲーム画面では気にも留めないが、こうして見ると、像の顔立ちはアルカイックスマイルで特徴に乏しい。

しかし、無造作な髪の造形や、しなやかな体の曲線は、神聖さの中にもどこか艶めかしい雰囲気を漂わせる。


「この像にアストラル・ジェムを寄進して、星の運行を操作するんですよね。実際にはどうやって行うんですか?」


僕が何気なくそう尋ねると、アイリシアは目を見開き、明らかに驚いた表情を浮かべる。


アストラル・オーブでは、プレイヤーが女神像に「アストラル・ジェム」というアイテムを寄進すると、星の運行を早めたり遅らせたりできる。


ボス戦の直前に天頂の星座を調整する、金策の際に狙うアイテムの質を変えるなど、効率的な攻略には欠かせないシステムだ。


この複雑なシステムこそが、やり込み好きの配信者たちを熱狂させ、動画配信を盛り上げた大きな要因でもある。


もっとも、僕はその複雑さをうまく飲み込めず、ヌルいプレイヤーに落ち着く原因にもなったのだが。


しばらくの沈黙の後、彼女は絞り出すように言う。


「……私も、知らないんだ」


アイリシアは少し何かを考え、再び歩き出す。

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