エルフに救われる #2

エルフは優雅な足取りで、僕に近づいてくる。


まるで神話の一場面のようだ。


「……動けるかい?」


エルフはそう言って、僕に手を差し伸べる。


声まで、透き通るように美しい。


僕はその手を取り、震える声で精一杯の感謝を伝える。


「ありがとうございます……。助かりました」


彼女の助けを借りて立ち上がる。


膝が少し笑っているけれど、なんとか自力で立てそうだ。


「見ない顔だね。どこから来たんだい?」


エルフの問いに、僕は言葉に詰まる。


どう答えるべきか迷う以前に、彼女が流暢な日本語を話していることに気づく。


異世界転生ものではお馴染みの翻訳チートだろうか。


しかし死んでから今まで、女神のような存在に出会った記憶はない。


転生した理由も、授けられたスキルも、誰からも何一つ説明がないまま、僕は見知らぬ異世界に放り出されている。


試しに、「ステータス、オープン」と心の中で念じてみる。


……何も起こらない。


やはり声に出さなければダメなのだろうか。


などとあれこれ考えているうちに、エルフの表情が明らかに怪訝なものへと変わっていく。


「……言えないのかい?」


質問の内容を一瞬失念している自分に気づき、慌てて我に返る。


「どう説明したらいいのか、わからないんです」


僕の答えに、エルフは少し考えるそぶりを見せる。


「……そうか。だったら、君の頭の中を少し覗かせてもらえないかい?」


狼を一瞬で葬り去るほどの力を持つエルフが言う「頭を覗く方法」とは、おそらくあれしかない。


「……魔法で、ですか?」


僕の問いに、エルフの怪訝な表情はさらに深まる。


「他に何かあるのかい?」


まるで僕が突拍子もないことを言ったかのような反応だ。


頭の中を覗かれるのはかなり抵抗がある。


だが、魔法というものを一度体験してみたいという好奇心もある。


「頭の中って、どのぐらいまで覗けるんですか?」


「……君はカウンセリングを受けた経験がないのかい?」


「ないです」


僕の即答ぶりに、エルフは少し怯んだように見える。


「……術をかけた後、私の方から質問する。その時に君の頭に浮かんだものを、私は認知できる。私が覗けるのは、質問に対する君の考えだけだよ」


それでもエルフが変な質問をしないとは限らないので、不安が完全に解消されているわけではないが、このままでは埒が明かないのも事実だ。


「わかりました。お願いします」


僕が承諾すると、エルフは「よし」と頷き、僕の目を覆うように手を横にかざす。


手のひらの温もりと、微かな香りが鼻をかすめる。


しかし、それ以上の何かは感じない。


しばらくその状態が続き、やがてエルフはゆっくりと手を退ける。


「……君は何者だい?」


エルフは眉間に深い皺を寄せ、呟く。


「アサシン? ……いやしかし……」


その言葉と共に、エルフは明らかに警戒の色を強め、手に持っていた杖を握り直す。


なぜ僕がそんな物騒な職業に疑われるのか、全く見当もつかない。


僕はおそらく暗殺者ではないはずだ。


だが、転生の際に暗殺者の能力が身についていたとしても、今の僕にそれを知る術はない。


「僕はアサシンではないと思います」


エルフの神経を逆撫でしないよう、慎重に言葉を選んでいるつもりだが、彼女はあからさまにイラついている。


「……『ないと思います』というのは、どういうことだい?」


ついにエルフは杖を構える。

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