第23話 植物園②

 「アザミちゃん座ってー」

私はフウカちゃんに言われるがままにローテーブルのそばに座った。ケイコちゃんは紅茶の準備をしてくれてる。ここはフウカちゃんの家なんだよね。ケイコちゃん手慣れてるな。二人は仲良しだし、よく来ているのかな。そういえばフウカちゃんの家に着いて手を洗わせてもらってた時、洗面台に歯ブラシが二つあったような。よく見るとベットの上には枕が二つある。 


「お待たせ」


ケイコちゃんは紅茶を三つテーブルに置いて自分も座った。


「あ、ケイコちゃんありがとう」


「アザミちゃん、サクラちゃんと何かあった?」


ケイコちゃんはいきなり私の顔を見ながら聞いてきた。


「ケ…ケイコちゃん、どうしてそんなこと聞くの?」


予想もしていなかった質問に私は困惑した。二人が私を呼んだ理由ってそれを聞くため?そんなに今日の私はおかしかった?


「アザミちゃん、今日サクラの顔全く見てなかったよー」


「え…」


フウカちゃんに指摘されても自分では分からなかった。多分フウカちゃんだけじゃなくてケイコちゃんも気づいているんだよね。だから今三人でいるんだろうし…もしかしたらサクラも気付いているの?


「それ…サクラは?」


ケイコちゃんは首を横に振った。


「ううん、多分サクラちゃんは気づいてないよ」


「そっか…」


ひとまず私は安心した。じゃあ何で二人は気付いたんだろう。


「アザミちゃんってさ、サクラのこと好きでしょー?」


フウカちゃんの声に反応して私は勢いよくフウカちゃんの方を見た。フウカちゃん、今なんて…何で気づいて…


「も…もちろんだよ。友達だもん」


私は誤魔化した。多分フウカちゃんはそういう意味で聞いていない。それでも私はとぼけるしかなかった。しかし今度はケイコちゃんが私に語りかける。


「アザミちゃん、いつも楽しそうだったのに、お休み明けの今日は、とてもつらそうだったよ」


私は精一杯の笑顔で答え続ける。


「えー、まだ風邪を引きずってるのかな。ケイコちゃん心配してくれてありがとう。もちろんフウカちゃんも」


二人が真剣な顔で私を見ている。どうしてフウカちゃんもケイコちゃんも私のサクラへの気持ちに気付いているの?もしかしてサクラにももうバレてる?まさかこれもサクラにお願いされて?どうしようどうしようどうしよう…私は動悸が止まらなくなった。呼吸が苦しい…早くこの場から立ち去りたい。


「アザミちゃん」


ケイコちゃんに呼ばれた。ケイコちゃんの顔が見れない。でも、私が下を向いている間、二人は黙ったままだった。これは、私はケイコちゃんの顔を見ないといけないの?嫌だ、怖い、見れない。でも、この静寂に耐えられなくなった私は顔を上げてケイコちゃんの顔を見た。二人は私が顔を見たのを確認してから、唇同士でキスをした。突然起きた出来後に私はただ二人を眺めていることしかできなかった。何秒くらい経ったのか、二人はしばらくして唇を離した。ケイコちゃんは私の方を見て、優しく問いかけた。


「アザミちゃんも同じでしょ?」


私はケイコちゃんの言葉を聞いて、泣いてしまった。なんでだろう。ケイコちゃんの今の言葉で涙が止まらない。目の前で起きた出来事を理解できない。いや、私ははっきりと理解してるんだ。だから涙が止まらないんだ。二人は私の両隣に移動して私を挟むように体を寄せてくれた。


 二人には、言ってもいいのかな。私はしっかりと考える前に既に二人に話していた。


「私…最初は二人きりで講義を受けられる時間があるだけで我慢できていたの…満足できていたの…」


「うん」


「でも…サクラが彼氏と別れたことをたまたま知って…二人きりの時間が増えて…」


「うん」


「そしたら…サクラのこと…もっと好きになって…サクラへの想いが自分でも止められなくて…私の気持ち…サクラにはバレたくないのに…」 


「どうして?」


ケイコちゃんが優しく聞いてくれたのに、私は声を荒げてしまった。


「だって嫌われちゃう!サクラに嫌われるのだけは嫌…」


「うん」


私は理不尽に声を荒げたのに二人は静かに聞いてくれていた。二人の優しさで私は話を続けてしまっていた。


「だから…サクラと距離を取らなきゃって…」


ここまで話して私は言葉が続かなくなり、それからはただ泣いていた。駄目だ。嫌なのに、もう泣くことしかできない。それなのにケイコちゃんもフウカちゃんも私に優しくしてくれて…二人には申し訳ないけどしばらくこのままにしてていいかな…


 二人は私の腰を擦ってくれていていた。


「アザミちゃん落ち着いたー?」


泣き止んだ私を見てフウカちゃんが声をかけた。 


「…ごめんね」


「謝らないで、つらかったよね」


ケイコちゃんは優しく言ってくれた。本当に二人とも優しい。それにしてもまさか二人が恋愛関係だったなんて、全然分からなかった。


「二人の関係のこと、サクラは知ってるの?」


「アザミちゃんしか知らないよー」


「アザミちゃんだから知ってほしかったんだよ」


それは私も女性に恋をしているから、だよね。私は二人の事を知りたくて質問を続ける。


「二人はその…いつからお付き合いを?」


「高校一年生の時からだよね?」


「ケイに急にナンパされたからなー」


「違っ…あれはフウちゃんが…」 


ケイコちゃんが赤面していた。きっとこれ以上は私は知らなくてもいいこと。それにしても二人はそんなに長い間付き合っているんだ。 


「羨ましい…」


私は思わず口に出していた。私、二人のことをそんなふうに思っちゃうんだ。ケイコちゃんは落ち着いた私を見て、私に聞いてきた。


「それで、アザミちゃんはサクラちゃんに恋をしてるって知られたら嫌われるって思ってるの?」


「だって女の子を好きになることは普通のことじゃないし…違うの!二人のことを否定したいんじゃなくて…」


「わかってるよ」


ケイコちゃんの口調は優しいままだった。二人には私のこと、全部話そう。話さなきゃ駄目だ。私は下を向いてしまったけど、それでも二人に話し始めた。


「私、小学生の時に好きだった女の子に告白したの。そしたらその子だけじゃなくて周りの人みんなに気味悪がられて…だから女の子を好きになることはおかしいことだから、サクラも私の気持ちを知ったらきっと…」


あぁ、話しているうちにまた泣きそうになる。


「二人と違って…サクラは…男の人と付き合っていたし…」


「うん、怖いよね」


「私もケイもアザミちゃん以外には親にも話してないしねー。でもサクラが男の人と付き合っていたかどうかは関係ないと思うなー」


「え…?」


私はフウカちゃんの顔を見た。私はフウカちゃんの言っていることをすぐに理解することができなかった。フウカちゃんは私のその様子を察して言葉を続けた。


「だって私、別に女の子が好きってわけじゃないしー、なんならケイと付き合う前は普通に男と付き合っていたしー」


「そう…なの?」


フウカちゃんに言葉の意図を説明してもらっても私は混乱していた。それでもケイコちゃんは私に優しく語りかけた。


「私たちがアザミちゃんに言いたいのは、女の子同士で恋愛をすることは我慢しなきゃいけないことじゃないんだよってこと」


「そうなのかな…」


「でも私にはそれが怖いことっていうのもわかるから、だからつらかったらいつでも相談してね」


「恋の相談は私とケイにしかできないでしょー」


二人の顔を見ると笑顔だった。誰かに共有できると、こんなにも心が楽になるんだ。それでも…


「二人ともありがとう。でも私はサクラとは友達でいたい」


今の関係が変わっちゃうのは嫌だ。私はサクラの近くにいたい。


「うん、アザミちゃんがそう望むなら」


「でもつらくなったらいつでも相談してねー」


二人は優しく微笑んだ。今日は二人について行ってよかった。私…やっぱりもっとサクラと一緒にいたい。距離なんか置きたくない。二人きりで会いたい。一人で抱え込んでいたからつらかったけど、相談できる友達がいるから、頑張ってみよう。


「また二人に話を聞いてもらうかもしれないけど、いい?」


「もちろんだよ!」


「まかせてー」


ケイコちゃんもフウカちゃんも優しい。それに、本当に二人は付き合っているんだな。


「ケイはこのまま泊まるでしょー」


「そうする」


「アザミちゃんも泊まるー?私たちがいろいろ教えてあげ…」


「アザミちゃん駅まで送るよ!」


ケイコちゃんが慌ててフウカちゃんの言葉を遮った。


「え…あ、ありがと」


「アザミちゃん、私とケイの営…」


「フウちゃん!」


ケイコちゃんは赤面しながら大声を出した。…二人はだいぶ進んでいるみたい。

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