第22話 植物園①

 私は自分の部屋で電気もつけずに、ベッドの上に座り布団に包まっていた。買った服も紙袋からの中に入ったまま床に置きっぱなしにしていた。私の馬鹿、どうしようもない馬鹿。やってしまった。あそこは秘密、じゃなくていないって言うべきだった。でも、あんな距離でサクラに結婚したい人がいるかを聞かれて、サクラの顔を見てしまって、嘘をつけなかった。サクラに対していないって言えなかった。サクラは私の気持ちには気付いていないと思う。気付かれちゃいけない。私はサクラの友達でいるんだ。サクラとその先を望んじゃいけないんだ。でも、二人でいる時間が増えて、日に日にサクラのことをもっと好きになっていく。サクラへの恋心が大きくなっていく。これ以上サクラと二人でいたら、もう自分を抑えられない。ならどうするか、簡単だ。私がサクラと距離を置けばいいんだ。もう十分だよ。十分二人で楽しい思い出を作ったよ。これ以上二人でいたらきっと私は間違える。前みたいに講義を二人で受けられるだけで満足しなくちゃ。サクラに嫌われるのだけは嫌だ。サクラが私の元から離れていく方が嫌だ。もう高望みはしない。そうでもしないと我慢できない。


 月曜日、私は大学に行かずに自分のベッドの中にいた。大学に行くつもりがなかった。スマホの通知音がなったから画面を確認するとサクラからだった。


『アザミお昼一緒に食べよー』


サクラは変わらず私に優しくしてくれている。私はサクラに返信した。


『ごめん。風引いちゃって今日大学行ってないんだ』


『大丈夫?しっかり休んでね!』 


『ありがとう。とりあえず一週間くらい家でゆっくりするね』


『お大事にね』


私は会話が終わった事を確認してスマホを遠くに置いた。嘘だ。風邪なんか引いてない。すぐサクラに会ってしまうとまたやってしまう気がして、大学に行かなかった。これでいいんだ。サクラだって、最近私に付き合ってくれていたから、この一週間で元の生活に戻っていたらいいな。私がいてもいなくても変わらない生活に。しかし何故か私の目から涙がこぼれた。私は何で泣いているの。サクラに会えなくなるわけじゃないのに。だから今サクラに会いたくないんだよ。このまま会っていたらきっと私はサクラに自分の気持ちがバレてしまう。そしたらもうサクラに会えなくなるんだよ。だからこの涙は間違ってるよ。サクラと会えて、話せるだけで満足してよ…


 一週間後の月曜日、私は一限目の講義から出席していた。この一週間、長かったな。人生で一番長い一週間だった。でもこの一週間でちゃんと落ち着くことができた。スマホの通知音が鳴った。画面を確認するとサクラだった。


『アザミもう大学来てる?』


本当にサクラは優しいな。わざわざ朝から連絡をくれるなんて。


『来てるよ。心配してくれてありがと!』


『よかった!お昼ご飯は食べれる?二人で食べようよ!』


…何で私の事を誘ってくるの?みんなで食べるのなら行ったけど、二人なら行かない。今は、サクラの優しさが私には痛い。


『ごめんね。今週レポートの提出があるみたいで、資料の準備をしなきゃいけないからお昼休みは図書館に行くの』


『大変だね…じゃあ四限目でね』


『うん』


サクラはそれ以上聞いてくる事はなかった。これからも二人になりそうな時は理由を付けて断ろう。もう二人きりにはならない。講義で二人になるのは仕方ない。講義中なら大丈夫。講義に集中すればいいだけだから。


 四限目の教室に行くと既にサクラと、一緒に講義を受けてるケイコちゃんとフウカちゃんもいた。私はサクラの隣が空いていたからそこに座った。サクラは私を見て早々私を心配してくれた。


「アザミもう体調は大丈夫?」


会って一言目で私のことを心配してくれるなんて、やっぱりサクラは優しい。…誰に対しても。私は笑顔で返した。


「もう元気だよ」


後ろに座っていたフウカちゃんとケイコちゃんも私の事を心配してくれていた。 


「アザミちゃんお久ー」


「アザミちゃん心配したよ」


「フウカちゃんもケイコちゃんも心配してくれてありがとう」


友達みんなでの時間は楽しい。この空間が心地良い。そう思わなきゃ。これでいいんだ。


 四限目の講義が終わり私たちは既に屋外に出ていた。


「ケイコもフウカもまた明日」


「バイバイ」


「ではではー」


サクラはケイコちゃんとフウカちゃんに別れを告げた。


「アザミ、駅まで一緒に行こう」


サクラは私を見た。そりゃそうなるよね。でも私は駅まででさえサクラと二人きりにはなりたくない。


「サクラごめんね。まだレポート資料が見つかってないから図書館で探さなきゃ」


「一緒に探そうか?」


「いやいや、申し訳ないよ。探すまでに時間がかかりそうだし、見つけた後はそのまま図書館でレポートを進めるから遅くなっちゃうよ」


「そっか…レポート頑張ってね。じゃあ三人ともまた明日」


サクラは一人で駅まで向かっていった。


 サクラが私の視界からいなくなってから私は図書館に向かった。


「アザミちゃんお待ちー」


「アザミちゃん今から時間ある?」


図書館に向かおうとするとフウカちゃんとケイコちゃんに話しかけられた。え?二人ともまだ帰ってなかったんだ。サクラに気を取られて全く気づかなかった。


「二人ともどうしたの?」


「アザミちゃん今から私たちとお茶しよー」


もしかしたら二人はさっきの会話を聞いていなかったのかもしれない。でも、だとしても何で?私は風邪で一週間休んだことになってるから気を使ってくれているのかな。せっかく気を使ってくれているし、私もレポートの資料を探すなんて嘘をついているからそういうことなら二人に付き合おうかな。でもその事をサクラに知られたら何で嘘をついたのってなるよね。まあ、みんなで会うなら仕方ないかな。


「じゃあサクラも呼ぶ?まだ間に合うかな?」


ケイコちゃんは首を横に振った。


「私たち、三人でお茶をしたいな。それにアザミちゃん、サクラちゃんに図書館に寄るって言ってたでしょ。だからサクラちゃんには内緒」


二人は私が図書館に行くと言っているのを聞いていたうえで私を誘っていたんだ。いよいよなんで?サクラには言えないこと?それをどうして私に?てか、私が嘘をついている事に気づいている?だったら尚更断る事ができないよね。


「うん、いいよ。どこに行くの?」


ケイコちゃんは私の同意を聞いてからフウカちゃんの方を見た。


「ここからだとフウちゃんの家のほうがが近いね」


「そだねー」


今からフウカちゃんの家に行くの?ますます二人が何を考えているのかわからない。それでも私は二人についていくしかなかった。

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