第20話 アウトレットモール④

 クレープを受け取った私たちはテラス席に座っていた。


「アザミ今日はたくさん買ったね」


「私お洋服にこんなにお金使ったの初めてだよ」


今日だけで10万円以上使っちゃった。でも全然後悔してない。サクラは期待を込めた顔をしながら私に話しかけた。


「これでアザミがおしゃれに興味を持ってくれたら嬉しいんだけどな」


それは難しいかな。やっぱり恥ずかしいし。でもサクラがちょっとでも喜んでくれるなら…


「少しずつ頑張ろうかな」


「本当?嬉しい!アザミはどんな格好でも似合っちゃうんだから!」


サクラは私がおしゃれをすると聞いて私でも分かるくらいすごく喜んでくれていた。


「そんなに褒めても何も出ないよ?」


「本当だって!」


サクラが褒めてくれただけで今日は来た甲斐があったな。


「大学でも着てきてね」


「絶対無理」


私はサクラに被せる様にすぐに否定した。流石に人前でなんて恥ずかしすぎる。サクラは私の答えを聞いて口を尖らせていた。


「えー何でー。買った意味ないじゃん」 


「無理無理!大学には着ていけないよ!」


「じゃあ…」


サクラの顔が私の顔の近づいてくる。そしてサクラは囁くように言った。


「私と二人きりの時にだけ着てよ」


「…う…うん」


サクラは私の返事を聞いてから顔を離した。


「約束だよ!いやー、私だけが知ってるアザミって嬉しいなー」


サクラは嬉しそうにしている。ずるい、サクラは本当にずるい。私のことを振り回して、手を握ってきて、簡単に今みたいなことを言って。サクラがそんなんだから私は…駄目だよ、私とサクラは友達なんだから。…でも友達としてなら?それなら許されるのかな。私はサクラの友達の中で一番になりたい。友達の中だけでは私を一番に選んでほしい。


 サクラは私もクレープを食べ終わったことを確認して席を立った。


「アザミ、クレープも食べ終わったし観覧車乗ろ!」


「そうだね」


私の鼓動は早いままだった。


 観覧車にはそんなに並んでおらず、すぐに私たちの順番が来た。


「次のお客様どうぞ」


私からゴンドラに乗り込み、紙袋を自分の横に置いた。観覧車なんていつぶりだろう。サクラも後からゴンドラに乗り込んできて、何故か私の紙袋を向かいの椅子に置いた。


「ちょっとアザミ詰めてー」


そして自分の持っていた紙袋も向かいの椅子に置いてサクラは私の隣に座ってきた。え?何で当たり前のように隣に座ってくるの!?普通向かい合わせじゃないの?ち…近い。ゴンドラがすごく狭く感じる。サクラは気にせずに会話を始めた。


「私観覧車に乗ったのいつぶりだろう。小学生の時に家族で遊園地に行った時ぶりかなー」


サクラは何で普通に喋っているの。私は緊張しっぱなしだよ。


「アザミは最後に観覧車に乗ったのいつ?」


「えっ!あー、私も小学生の時かな。動物園に行った時に乗った気がする」


「懐かしい!そういえば小さいけど遊園地あったね」


大丈夫?私はちゃんと普通に会話ができてる?


「結構高いところまで上がっていくね」


「サクラは高いところは平気?」


「うん、大丈夫。アザミは?」


「私も大丈夫かな」 


「そういえば私バンジー跳んでみたいんだよね」


「私バンジーは無理かも」


バンジーはまた別じゃない?


「えー、一緒に跳ぼうよ」


「私は多分怖くて跳べないよ」


「ひどい。アザミは私を一人で高い場所から突き落とすのね」


サクラはわざとらしく悲しい顔をしてきた。


「もう言い方!わかったよ、バンジー跳ぶときは一緒に跳ぼうね」 


「流石アザミ、男前」


「もー」


サクラと一緒ならバンジーも跳べるかな…いや無理そう。今のうちに高いところに慣れとこう。


 サクラは外の景色を見ていたけど、何かを見つけたのか、私の腕をつついてきた。


「わぁ、何あれ。お城みたい。アザミも見てみて」


サクラが指を差した方を見ると確かにそこにはお城の様な建物が建っていた。


「あー、あれ結婚式場だよ」


「すごく綺麗だなー」


サクラは式場に見惚れていた。確かに綺麗。まるで別世界みたいな大きな白いお城。すぐ近くに広がる海も神秘的。


「私もああいう場所で結婚式したいなー」


サクラの、今の会話の流れなら当たり前の感想に対して、私は嫌な気持ちになってしまった。あんな綺麗な式場を見たら誰だってそう思うだろうけど、サクラの結婚式は想像したくない。絶対祝福できない。サクラは無邪気に会話を続ける。


「アザミは今結婚したい人はいるの?なーんて…」


サクラから結婚したい人がいるかを聞かれ思わず私はサクラの顔を見てしまった。駄目だ、そんなことサクラに言われたら。今すぐサクラの顔を見るのをやめないと。早くしないと、自分の顔は見えてないけど、絶対にしちゃいけない顔をしてる。その願いは虚しく、私の顔は赤面していたのだろう、サクラは興奮気味に私に話しかけた。


「え!その反応はもしかして誰かいるの!?」


「…秘密」


私はサクラから顔を背け、絞り出すように声を出した。やってしまった。でも私の気持ちはサクラにはバレていないはず。


「アザミ教えてよー」


何も知らないサクラはしつこく聞いてくる。


「絶対教えない。誰にも言わない」


「アザミのケチー」


私が言わないと悟ったのか、それ以上サクラが聞いてくることはなかった。言えるわけないよ。サクラにだけは一生言えないよ。


「でもアザミの結婚式の時は絶対呼んでね。私友人代表スピーチしちゃうよ」


「ははは…」


サクラの顔を見ると笑っていた。ごめんね。そんな日は絶対来ないよ。観覧車早く下まで降りないかな。時間がとても長く感じる。今だけはサクラと一緒にいたくない。できることなら今すぐゴンドラから飛び降りたい。サクラはすっかり外の景色に夢中だった。無防備に私の左側に置かれたサクラの右手。思わず私の左手を重ねたくなった。サクラが結婚式の話なんかするから、嫌でも意識しちゃう。サクラの隣は誰にも譲りたくない。

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