第15話 カフェ⑤

 食事を終えた私たちはお店を出た。


「ありがとうございましたー」


サクラは明らかにつらそうな顔をしていた。


「おなかいっぱいだね」


「サクラ、二人で一つのパンケーキでもよかったんじゃない?」


サクラも私と同じ事を思っていた様で私にすがる様な顔で言葉を返した。


「本当だよー」


「今日だけですごく太った気がする」


「体重計に乗るのが怖い」


サクラが自分のお腹を触っている中、私はまたこのまま帰るのが嫌でサクラにこの後を委ねた。


「サクラはこの後どうするの?」


サクラは考え込んでいたが、思い出したような表情をした。


「帰る前に本屋に寄ろうかな。レポートに使う資料探さなきゃ」 


サクラに私もついていけそうな次の予定があることを知り、急いでサクラに話しかけた。


「あ、じゃあ私も一緒に行く。私もレポートの資料買わないと」


「歩いてカロリーも消費しないとね」


「たくさん歩こう!」


サクラは私がついていくこと何の疑問も持たずに一緒に本屋に向かってくれた。サクラとまだ一緒にいたくてそれらしい理由でついてきちゃった。私もレポートがあるのは本当だけど、資料は既に大学の図書館で探し終えてるのに。


「サクラは何のレポート?」


「私は経済学。アザミは?」


「私は民法だよ」


「難しそー」


私は本屋に向かうまでの間のサクラとの会話を噛み締めている。これは私の最後のわがまま。この数日間は本当に幸せだった。サクラの特別になれた気がして、私にはもったいないくらいの贅沢な時間だった。今日で二人きりの時間は終わり。


 サクラはさっきまでのカフェの話をした。


「パンケーキ美味しかったね。アザミは抹茶とクリームチーズどっちが好きだった?」


「うーん、どっちも美味しかったけど、どっちかを選ぶなら抹茶の方かな」


「私も!」


「なおさら抹茶のパンケーキだけでよかったね」


サクラは余程どちらも食べたかったのか、可愛らしい怒った顔をした。


「でもクリームチーズの方も美味しかったもん!」


「そうだね。食べた分しっかり歩こう」


「頑張る!」


私は水族館の時から今も、講義の時やケイコちゃんやフウカちゃんといる時とは違い、サクラと本当の友達みたいに話せた事に幸せを感じている。勝手にサクラと距離が縮まったんじゃないかとさえ思っている。だからこれからも別に二人きりじゃなくてもこうやって普通に話せると思う。それで十分幸せじゃん。二人きりじゃなくてもサクラの近くにはずっといられるんだから。


 するとサクラが急に私の顔を見て笑顔を見せた。


「本当にアザミと友達でよかったよ!」


「え…急にどうしたの?」


サクラに急にそんな事を言われて私は動揺していた。サクラはそんな私にお構いなしに会話を続ける。


「だってアザミと一緒にいるとすっごい楽しいんだもん!」


サクラが笑っている。そんな顔して言わないで…勘違いしちゃうよ。変な期待を持っちゃうよ。


「私も…サクラと一緒にいると楽しいよ」


「また次も二人で遊びに行こうね!」


「え…」


サクラの方から二人での約束をされて私は思わず困惑した表情をしてしまった。その顔を見たサクラは悲しい顔をした。


「アザミは嫌なの?」


「嫌じゃないよ!でも…サクラはみんなで遊びに行くほうが楽しめるんじゃないかな?だって…」


私は話している内にサクラの顔を見ることができず、下を向いた。だって、サクラにはもう私と二人でいる理由はないし。今のだって別に深い意味で二人で遊びに行こうって言ったんじゃないだろうし。


「何でアザミはそんなこと言うの!」


サクラが大声を出したから、私は驚いて顔を上げた。サクラの顔を見ると、サクラはやっぱり悲しい顔をしていた。私の見間違いじゃなかった。でも何でサクラがそんな顔をするの?サクラは声を荒げながら話を続ける。


「アザミは前からそればっか…みんなでみんなでって」 


「私は…」


私はサクラに楽しんでほしいから、私に気を使ってほしくないから。サクラは私なんかと二人でいるよりも、他の友だちと一緒の方が楽しめるはずだから。私の否定的な様子にサクラはさらに私に言葉を投げる。


「私は!アザミと二人で遊びたいの!アザミが言ってくれたんだよ?私と二人で楽しい思い出をもっと作ろうって。私、本当にあの言葉が嬉しかったんだよ?」 


「それは…」


私はそれ以上言葉が続かない。私はサクラから目を逸らした。そんな私を見てサクラは私の目の前に立ち、優しく語りかけた。


「私はアザミと二人でいるときが楽しいの。勝手に変な遠慮しないで。アザミはどうなの?」


何でサクラがそんな事を言うの。そりゃ私はサクラと二人でいる時は本当に楽しくて、幸せだよ。私は下を向いたまま答えた。


「私も…サクラと二人でいるときが楽しい…」


サクラには私のその答えで十分だったのか、すっかり明るい口調に戻っていた。


「だったらこれかも二人で遊びに行こうよ!まだまだ二人で楽しい思い出残していこうよ!」

「そうだね…」


「次はどこに行こうかなー」


サクラの顔はまだ見れていないけど、喜んでいそうな口調に私は思わず同意してしまった。サクラの足が視界からなくなっているから、おそらくもう本屋に向かっているのだろう。サクラがこれからも私と二人の時間を約束してくれた。でも勘違いしちゃ駄目。私はサクラの大勢いる友達の中の一人。サクラに深い意味はない。でも、サクラが二人で遊んでくれるうちは、私も楽しんでもいいのかな。

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