第11話 カフェ①

 私は自分ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めていた。身体が熱い。キ…キ…キスされた。サクラにキスされた。ほっぺにだけどキスされた。帰り道はサクラがいたから必死に落ち着けーって頑張ったけど、私サクラにキスされたの!?帰り道から鼓動が早いままだ。ほっぺにはまだサクラの柔らかい唇の感触が残ってる。あれは反則だよー。駄目だ、いったん落ち着こう。このままだと勢いで何をするかわからない。私はベッドから体を起こし、深呼吸をした。今思うと、今日の私は自分が思っている以上に浮かれていたんだと思う。デートっていうのを意識しすぎていた気がする。私はただの代役でしかなかったのに。サクラも私としては見ていなかっただろうし。それにサクラは一人で楽しんでいたし。でも私は、いつもと違う、恋人の前でしか見せないサクラを見て、おかしくなってたんだと思う。今日はとにかくやらかしが多すぎる。特にイルカショー。サクラに濡れてほしくないからってショーの途中なのにサクラに覆いかぶさってショーを見ているサクラの邪魔をして。サクラは笑ってくれていたけど、普通は絶対に引かれてるよ。本当にサクラは優しすぎるよ。今まで火曜日の二限目の講義だけがサクラと二人きりの時間だったのに。サクラと二人の時間が増えることで、逆にサクラに嫌われちゃう可能性が高くなる気がする。でも、あの海で、サクラともっと一緒にいたいって思ってしまった。だから二人で楽しい思い出をもっと作ろうなんて言っちゃったんだろうな。本当、自分勝手にも程があるよ。それでも、サクラが少しでも私のことを見てくれたらいいな。思っちゃいけないけど、今日は幸せだったな。私の人生で一番の思い出だ。


 月曜日の一限目。私は一人で講義を受けていた。しかし、講義の内容は全く頭に入ってこない。土曜日が幸せすぎて、昨日は一日中ベットの中にいた。今日もやる気が出てこない。早くサクラに会いたい。またサクラと二人で遊びに行きたいな。スマホの通知音が鳴ったので画面を確認するとサクラからだった。サクラからなんて珍しいな。私はそのまま内容を確認した。


『おはよう!今日一緒にご飯食べよー』


まさかのサクラからランチのお誘いだった。今までそんなことなかったのに。そっか、サクラはいつも火曜日意外は彼氏とご飯を食べてたんだった。それでも誘われて嬉しいな。私はサクラに返信した。


『おはよう!お昼一緒に食べよう!売店で集合でいい?』


『了解!』


私は初めてのサクラからのランチの誘いに舞い上がっていたけど、我に返った。しまった、浮かれすぎてつい二人きりで食べようとしてた。もちろん私は二人きりはすごく嬉しいけど、サクラはみんなで食べたほうが楽しいよね。私からケイコちゃんとフウカちゃんを誘っておこう。


『ケイコちゃんとフウカちゃんには私から伝えておくね』


『ごめん!今日は二人がいいな』


サクラからすぐに返信が帰ってきたけど、その内容は私の想像していなかった答えで思わず困惑した。え!?私は全然大丈夫だし、なんなら嬉しいけど…もしかしてサクラにまた何かあったのかな?


『わかった!じゃあお昼休みに!』


私はサクラに何があったのか心配でその後の講義は尚の事全く頭に入ってこなかった。


 私は二限目の講義が終わってから、走って売店に向かっていた。結局別の意味で一限目も二限目も集中できなかった。サクラ今度はどうしたんだろう。心配だよ。売店に入るとすでにサクラはご飯を買い終えて席に座っていた。私は急いでサクラの元まで向かい、目の前まで行って謝った。


「ごめんサクラ!待ったせちゃったよね」


サクラは気にしない様子で首を横に振った。


「ううん、私も二限目があったし全然待ってないよ」


「とりあえずすぐに自分の買ってくるね」


私の馬鹿。こんなことなら二限目の講義なんかサボればよかった。私は急いでパンを買ってサクラのいる席まで戻った。私が戻ってきてからサクラはお弁当の蓋を開けた。


「いただきまーす」


サクラはそのままお弁当を口に含んでいく。あれ?普通に食べてる。私から聞いてもいいのかな。やっぱりサクラが言ってくれるのを待ったほうがいいのかな。


「アザミ、何そわそわしてるの?」


サクラは落ち着きのない私の様子を見て不思議そうにしていた。私はサクラに急に話しかけられて考えるより先に声に出ていた。


「いや…二人でお昼なんて珍しいし、サクラに何かあったのかなって心配で…」


正直に言ってしまった。何してるの私!するとサクラは笑った。


「別に何もないよー。今までカイトとご飯食べてたから、一人で食べるのも嫌だし。だからアザミ誘っちゃった」


そう言ってサクラは再び箸を進めた。私は誘ってもらえて嬉しいけど、別にそれならみんなで食べてもいいんじゃ…


「それに私が別れたことを知ってるの、まだアザミだけなんだよねー」


サクラは表情を変えずにお弁当を食べながら私に説明をしてくれた。私だけが知っているっていうのは、なんか嬉しいな。でも本当に私が知れたのはたまたまだったんだな。


「まあ、別に隠してるわけじゃないからケイコとフウカには私から言ってもいいんだけどね。でもあの二人は茶化しそう…」


サクラは私に嫌そうな顔をしてみせた。嫌そうな顔をしているサクラも可愛い。そうじゃなくて、私って本当に無神経だったんだな。サクラにずけずけと聞いちゃっていたし。気をつけないと本当にサクラに嫌われちゃう。


 当然サクラは本当に何もなかったので、普通に世間話を始めた。


「アザミっていつもパンだよね?好きなの?」


「うーん、確かにおかずよりは好きかも」


「でもいつも菓子パンだよね?…太るよ?」


サクラがニヤリとした。私はサクラに言い返した。


「毎日腹筋してるもん!」


確かに私はメイクも上手くできないし、おしゃれも全然わかんないけど、サクラの隣にいられるように最低限の努力はしてるんだから!しかしサクラはニヤリとした顔をやめず、箸を置いて私のお腹に手を伸ばしてきた。


「本当かなー、お腹触っていい?」


私は伸びてきているサクラの手を遮るように自分の両手で自分のお腹をガードした。


「…セクハラです」


サクラにお腹を触られたら絶対自分を抑えられない。サクラは私にセクハラと言われて、尚更私のお腹を触ろうとしてきた。


「なんでよ!やっぱりおなかぷにぷにしてるんでしょ。確かめさせてよ」


「…エッチ」


私は絞り出すように声を出した。


「だからなんでよ!もー」


サクラは伸ばしていた手を引っ込め、再び箸を進めた。多分サクラは私の冗談だと思ってくれてるんだろうな。私が気を保つために触られたくないだけなんだけどね。

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