第10話 水族館🌸

 私は自分の部屋にいた。アザミは本当に優しい。本当なら今すぐアザミに、さっきはごめんね、明日は私に付き合わなくて大丈夫だよ、って言うべきだって分かっている。でも、アザミが私に優しくしてくれるから、私は甘えてしまう。このまま一人で苦しみたくないって思ってしまう。


 私はアザミに明日の待ち合わせ場所をメッセージで送った。アザミはそんなことをする人じゃないけど、そのままなかったことにされる前に念押ししたかった。思った通り、アザミは大丈夫って返してくれた。これで明日は一人でいることはない。アザミのことだから、面倒くさいなって気持ちは全然なくて、私のために気を使ってくれているんだと思う。私はそこまで分かっていて、アザミを利用している。私は身勝手だ。


 結局昨日は全然眠れなかった。今から私はアザミと水族館に行く。本当はカイトと行くはずだったんだけどな。今日はアザミと行くからいつも通りの格好でいいかな。いや、アザミは昨日デートって言ってくれた。会話の流れからして当たり前なのに、私は都合よく受けとめている。どうせならいつものデートに行く時みたいにメイクもオトナっぽくして、とびきりおしゃれもしちゃおう。ちゃんとデートをして、カイトとは一区切りつけよう。そうしたらカイトのことを、少しだけでも考えないで済むかもしれない。本当にアザミには申し訳ないな。アザミは私のために誘ってくれたのに、私は全然アザミのことを考えていない。


 待ち合わせ場所に着くとまだ二十分前なのに既にアザミが待っていた。アザミを待たせると悪いと思って早めに来たのに。私は走ってアザミの元まで行った。アザミは全然待ってないと言ってくれたけど、今日はアザミには私に付き合ってもらっているから、少しでも待ってもらったことに申し訳ない気持ちになった。アザミは他人の失恋話を聞かされたうえに、休日まで潰されているのに、どうしてこんなに優しくできるの?


 アザミは私の格好を見て可愛いって褒めてくれた。何故かその後いつも可愛いってフォローもしてくれた。アザミはフォローしながらあたふたしていたから私は笑ってしまった。なのにアザミは私がおしゃれをしているのに自分はおしゃれをしていないからって謝ってきた。そんなことで謝らないでいいのに。友達と遊ぶだけなんだからむしろアザミの格好が普通なのに。今日、デートの格好で来たのは私の身勝手な理由。私は自分のことしか考えていないのに、アザミは私のことを考えてくれている。アザミは友達思いすぎるよ。今日は一人じゃないなら誰でもよかったけど、せめて来てくれたアザミには、今日を楽しんでほしい。


 私たちは水族館を後にして海に来ていた。もちろん、純粋に海を見たいって気持ちもあるけど、予定通りのデートプランをしているのはカイトへの当てつけの気持ちもあるかもしれない。アザミにはここまで付き合ってもらって申し訳ない気持ちになる。


 あぁ、海が綺麗。今日は本当に楽しむことができた。水族館にいる間、私は純粋に楽しんでいた。それにしても、イルカショーの時は本当に笑っちゃった。いきなりアザミが私に覆いかぶさってくるんだもん。そのままアザミだけ濡れていたし。しかも理由がおしゃれをしている私が濡れたら台無しだからって。高校の時から一緒にいたけど、アザミがあんなことをするとは思わなかった。アザミって不思議な子だな。いや、アザミは優しすぎるだけかな。


 水族館にいるときは考えていなかったのに、海を眺めているとふとカイトのことを考えている自分がいた。結局今日は友達と楽しく遊んだだけだから、カイトとは一区切りつけることができなかったのかな。そう簡単には割り切れられないんだね。しばらくはカイトのことを考え続けるのかな。それっていつまで続くの。全然カイトのことを忘れられない。


 それでもアザミには今日は私に付き合ってもらったからお礼を言った。でも話している内に本音が出ちゃって、またアザミを困らせたと思う。それでも優しくしてくれるアザミに私はどうしても甘えてしまう。私はアザミにまた話を聞いてほしいってお願いをした。今日は私と一緒にいてくれたら誰でもいいって思っているくせに、アザミが優しくしてくれるからって頼りきって、私は駄目だな。


 するとアザミが二人でもっと楽しい思い出をもっと作ろうって言ってくれた。その言葉を聞いて私は自然と涙を流していた。悲しいからじゃない。自分でも今の感情を説明できない。私は今、嬉しいって思っているのかな。少し違う気がするけど、私にはそれ以外の言葉で説明できない。さっきまでは一人じゃないなら誰でもいいって思っていたけど、今は、今日アザミと一緒に来れて本当によかったって思っている。それにさっきのアザミの言葉を聞いてカイトのことを忘れることができた。これだけのことで忘れられる私は薄情なのかな。でも、私にはもうカイトとの思い出はいらない。私はこれからアザミともっと楽しい思い出を作っていく。


 おかしいな。さっきからずっとアザミのことばっかり考えている。それに無性にサクラにキスをしたくなった。バス停に向かっていた私は私は後ろを歩くアザミの元まで戻ってアザミの頬にキスをした。アザミは驚いていたけど、私はデートだからって言った。私は本当にアザミの言葉が嬉しかったんだろうな。

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