第7話 水族館②

 バスはすぐに来たので私たちは乗車した。聞いてもいいか分からなかったけど、私にはその他の話が思い浮かばず、今日の目的地についてサクラに聞いた。


「ところで今日はどこに行くの?」


サクラはハッとしたような表情をして私に両手を合わせた。


「ごめん!私言ってなかったよね。今日は水族館に行くの」


今日は水族館に行くんだ。一年記念日のデートの目的地になるくらいだから、サクラはよっぽど水族館に行きたかったんだろうな。そういえば私、水族館に行ったことないかも。


「そうなんだ、楽しみだな」


「私も楽しみなの!イルカショーもやってるんだよ」


「それは絶対見なきゃだね」


サクラの顔はさっきまでとは打って変わって笑顔だった。きっとずっと今日を待ち望んだいたんだろう。その相手が私なのが本当に申し訳ない。サクラには私のことなんか考えずに楽しんでほしいな。そう思いながらも私は、今日はみんなで来ればよかったね、ってサクラに言う勇気が出なかった。サクラに本当だねって、なんで二人なのって、そう言われるのが怖くて、今だけは、私がサクラと二人きりでいたいだけ。私は自分勝手で、最低。


「アザミ?」


サクラは心配そうに私の顔を覗いた。もしかして私、今暗い顔してた?駄目だよ、ただでさえ今日だってサクラに気を使わせてるのに、これ以上私に気を使わせるわけにはいかないよ。私は急いで笑顔にしてサクラに話しかけた。


「サクラはイルカショー以外には何が見たい?」


「うーん、ショーは他にもあるからなー」


「じゃあ、今日はショー全部見ちゃおう!ショーに限らず、サクラが見たいものは全部見ようよ!」


「本当?嬉しい!アザラシのショーも見たいし、ペンギンだって見たいし、大っきな水槽もあるみたいだよ!」


サクラは楽しそうに話した。よかった、今日はサクラが楽しむ日だから。サクラが少しでも元気になってくれればそれでいい。サクラはそれからもバスに乗っている間ずっと水族館の話をしていた。


 バスに乗ること約一時間、目的地の水族館に到着した。サクラは駆け足でバス停から水族館の入り口まで向かっていった。


「アザミ、早く!」


先に行っていたサクラは後ろを振り返り、私に手を振って私を呼んだ。サクラ楽しそう。もしかしたら無理やりにでもテンションを上げているだけかもしれないけど。それでも私は今日は代役を務めるだけ。サクラに少しでも気晴らしをしてもらうだけ。私たちは入り口外の券売機で入場券を買って中に入った。


 サクラは中に入るやいなや、順路である上の階へ向かう階段を素通りし、その先の場所にある売店に向かった。


「このぬいぐるみ可愛い。あっ、こっちも…」


サクラはゆいぐるみを両手に取り物色していた。サクラってぬいぐるみが好きなのかな。そんなところも可愛い。じゃなくて今買っちゃうと荷物になっちゃうよね。私は階段のそばからサクラを呼んだ。


「サクラー、順路はこっちみたいだよー。ぬいぐるみは最後に買おー」


「わかったー」


サクラは手に持っていたぬいぐるみを元の場所に戻し、私の元へ駆け寄って来た。サクラが私のところまで駆け寄って来るのはいつ見ても可愛い。だからそうじゃないでしょ!今日はサクラに楽しんでもらうの。私は自分のスマホで今日のショースケジュールを確認した。


「サクラ、アザラシのショーまで時間があるから先に館内を回ろう」


「賛成ー」


 私たちは案内されている順路に沿って歩いていると、小魚たちがいる水槽が私たちを出迎えた。水槽は頭上まで広がっている。その水槽は目の前に人が来たらそうなるのか、それとも時間によってなのか、どぼんっと大きい音を鳴らし、大量の泡が発生した。


「すごい…」


サクラは目の前の水槽に釘付けだった。私はというと、全く別のことを考えていた。水族館ってこんなに館内は暗いんだ。暗い室内にサクラと二人きり…全然集中できない!順路の先を向くと、この先も複数の水槽が展示されていた。サクラはその一つ一つに足を止め、ゆっくりと眺めていた。私はサクラについて行っていたけど、展示物が何も視界に入ってこなかった。


「アザミすごいね」


「そうだね…」


サクラは私のいる右斜め後ろを振り返り、私にも感想の共有をしてくれた。サクラごめん。私全く水槽を見てない。ずっとドキドキしている。先に進むと亀が二匹いる水槽があった。


「亀だ!可愛い!」


サクラは亀の目の前に行き、しゃがみ込んだ。


「私たち、めっちゃ亀と目が合うじゃん」


サクラが笑っている。サクラはいつもよりオシャレをしているからかな。サクラの小さな身振りにさえドキドキする。私はサクラの後ろ姿しか見ることができなかった。

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