第6話 水族館①

 私は自分のベッドに仰向けになって天井を見ていた。私一体何をしているの。いくらなんでもあれはないよ。代わりにデートに行くって、今考えると全く意味が分からない。別れたばかりの人に言っていい言葉じゃない。せめて、普通に気分転換しよう、とかでしょ。私は傷ついているサクラに付け込んで自分のことしか考えていない。ただ私がサクラとデートがしたかっただけだ。結果、サクラにさらに無理をさせて、私なんかに気を使わせてしまった。さっきの私はどうかしてた。サクラが私に別れたことを話してくれたときは、私は怒っている、とか思っていたけど、もしかしたら無意識に喜んでいたのかもしれない。やっぱり今からでもサクラに謝ろう。私がスマホを手に取ろうとした時、スマホの通知音が鳴った。画面を確認するとサクラからだった。なんだろう、確認するのが怖い。私は恐る恐る内容を確認した。


『明日は9時に大画面で待ち合わせで大丈夫?』


これって明日のこと?まさか本当に明日はサクラと休日にお出かけをするの?本当にサクラとデートに行けるの?さっきまでの反省はどこに行ったのか、私は喜んでしまっていた。はっきり言って今は下心しかない。どこに行くんだろう。聞かないほうがいいのかな。私はどこでも嬉しいけど。とにかく早く返信しなくちゃ。


『大丈夫だよ!明日はよろしくね』


さすがにデートとは書けなかった。これ以上調子に乗らないようにしないと。このままだと自分でも何をしてしまうか分からない。でも、明日は楽しみだな。サクラと休日に二人きり…違うでしょ!明日は少しでもサクラに元気を出してもらえるようにするだけ。明日はちゃんとするんだ。


 って昨日思っていたのに、今は8時。私は既にサクラとの待ち合わせ場所に着いていた。浮かれすぎでしょ私!ここまで来るのに家から地下鉄で二十分くらいだし、数分おきに電車は来るからこんなに早く着くわけないのに。私は深呼吸をした。とにかく、今日は気をつけなくちゃ。昨日は変なことばっかり言っちゃったし。このままじゃまた変なことを言っちゃうかもしれない。でも今日は代役とはいえデート…私は自分で思ったくせにデートと言う単語に思わずニヤけてしまった。本当に良くないよ私。せっかく早く来たんだし、落ち着こう。浮かれ気分の中、落ち着こうと努めているとある考えが私の頭に浮かんだ。あれ?別に今日二人きりじゃなくても、普通にみんなで遊んだ方がサクラは楽しめたんじゃない?そもそもサクラにとって、私よりも仲良しの友達はたくさんいるし、それこそ大学ならケイコちゃんもフウカちゃんもいる。何なら私と二人よりも楽しめるんじゃ…でも昨日今日で別れたことをみんなに言うのも…いや、別に別れたことを言わなくても遊びには誘えるじゃん。それでも…私は自分で勝手に言い訳を並べていた。そんな自分に嫌気が差した。あー、結局私ってサクラのことを考えているようで自分のことしか考えてない。逆に自分の駄目さ加減で落ち着いてきた。私は約束の時間までただ突っ立っていた。


 時刻は八時四十分になっていた。


「アザミ!」


サクラの声がした方を向くと私の元まで小走りでやってくるサクラがいた。


「アザミごめん。待たせちゃった?」


「…全然待ってないよ」


今目の前にいるサクラは、私がいつも大学で見ているサクラとは違った。メイクはいつもよりオトナっぽく、服装も大学に着てきているものと違い、上手く言葉にはできないけど、いつもよりも女の子らしく感じた。今日のサクラ、いつもより可愛い。


「…サクラ、今日可愛い」


心のなかにとどめておくつもりだったのに、無意識に口から言葉が溢れていた。やばい、声に出ちゃった。私は急いでフォローしようと言葉を続けた。


「いや違うの!サクラはいつも可愛いよ!じゃなくてその…えーっと…」


上手く言葉にすることができず、私はあたふたしながら赤面した。サクラを見ると笑っていた。


「ありがとう。今日はデートだから気合入れちゃった」


はにかんだサクラを見て私はドキッとした。いつもと違うサクラ。私が見たことないサクラ。いつもより可愛いメイクをして、おしゃれをしているのが私でもわかる。これが恋人の前でしかしないサクラなんだ。私の知らないサクラを見れる人は羨ましいな。そんなこと、私が考える必要ないのに。それにこんなに可愛いサクラに対して私は、大してメイクも上手くないし、今日の服装だっていつもと同じジーンズにTシャツ。こんな私、サクラに釣り合ってないし、失礼だよ…


「ごめんね。私全然おしゃれじゃなくて。サクラはせっかく可愛くしてるのに。」


「そんなことないよ」


急にサクラがうつむいてしまった。もしかして私何かしちゃった?思い当たるフシが多すぎる。


「サクラどうしたの?」


私の問いかけにサクラはすぐに顔を上げた。しかしその顔に笑顔はなく、少し暗い表情をしていた。


「本当はね、アザミと遊びに行くだけだからいつもの格好でいいかなって思ってたんだ。でも、アザミが今日はデートって言ってくれたから、ちゃんとデートをして、カイトとは一区切りつけたくなったの」


そうだよね、サクラはまだ傷ついているんだ。当たり前だ。なら今日私がしないといけないことはサクラに楽しんでもらうこと。私の気持ちはいらない。


「だからアザミ、今日は私に付き合ってくれる?」


サクラが申し訳なさそうに、それでいて悲しい笑顔をしていたから私は精一杯の笑顔で答えた。


「もちろんだよ。今日はサクラがしたいこと全部しちゃおう」


「ありがとう。じゃあバス停に行こ」


「うん」

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