第5話 大学🌸

 部活に入っていない私は終礼後そのまま下校していた。クラスの友達はみんな部活に入っているから基本いつも私は一人で帰っている。廊下を歩いていると、廊下での会話が聞こえてきた。全然聞くつもりはなかったけど、私の名前が聞こえてきて思わず足を止めてしまった。会話をしていた人たちは私がいることには気付いていないのか、話を続けている。話を聞くと、私はぶりっ子で、塾で男子に色目を使っているといった内容だった。その後も笑いながら話していたけど、私はこれ以上聞くことができなくて走ってその場を離れた。


 中庭に出た私はベンチに腰掛けた。私ってあんな印象を持たれていたんだ。全然そんなつもりはなかったのに。別のクラスで、何なら一度も同じクラスになったことがない人からあんなことを言われているなんて思わなかった。もしかしてクラスでもそう思われてる?そう思うと怖くなった。私は嫌われているんじゃないかと思うとこの場から動くことができなくなった。


 私がベンチでうずくまっていると私の名前を呼ぶ声がした。顔を上げるとクラスメイトの柊さんがいた。まさか今クラスメイトの人に会うと思っていなくて思わず驚いてしまった。柊さんは私の具合が悪いと思っているのか、心配してくれた。でも、もしかしたら柊さんも私のことが嫌いなんじゃないかって思ってしまって私は早く会話を切り上げた。なのに柊さんはしつこく聞いてくるから私は強く言い返してしまった。早く帰ってほしい。それなのに柊さんはこんな態度の悪い私に優しく声をかけてくれた。そして話を聞くよって言ってくれた。柊さんが真面目な顔をして自分のことは人形と思ってくれていいなんて言うから思わず笑っちゃった。


 私は柊さんにさっき聞いてしまった会話の内容を話した。私は話している内に泣いてしまった。柊さんは自分のハンカチで私の涙を拭ってくれて、クラスのみんなは私の笑顔が大好きで、自分は私の笑顔を見て幸せになっているとまで言ってくれた。そんなことを言ってもらえるなんて思っていなかったから言葉が出なかっただけなのに、柊さんは何故かあたふたしていて、その様子が面白くてまた笑っちゃった。こんなに優しい柊さんと私は友達になりたいって思ったから、これからは下の名前で呼ぶことにした。アザミにも私の下の名前を呼んでほしいとお願いすると、サクラって呼んでくれた。ここでアザミに会えてよかった。明日からも学校が楽しい場所と思えるから。


 お昼休み、会って早々カイトから別れてくれって言われて、私は混乱していた。カイトは話を続けてる。カイトにはもう好きな子までいるみたい。聞いてもいないのにその子はバイトが同じってことまで教えてくれた。私はどういうこと、としか聞けない。カイトは無表情のままごめんとしか言ってくれない。私はいつから、とか冗談だよね、とかとにかくいろいろ言ったけどカイトから帰ってくる返事はごめんだけだった。何も言えなくなった私を見てカイトは淡々と明日のデートは行かないでいいって言ってきた。明日は付き合って一年記念日のデートだった。ずっと前から水族館に行こうって決めていたのに。それすら行きたくなくなるくらい私とは一緒にいたくないの?もう私のことは好きじゃないの、って思わずカイトに聞いてしまった。カイトからの返事は友達ではいたい、だった。その返事が私のことを馬鹿にしているようにしか思えなくて、気付いたら両手でカイトの体を押していた。そのままもう話しかけてこないで、って叫んだらカイトはじゃあ連絡先は消しといてって言葉だけを残してそそくさとどこかに行ってしまった。つまり、これでもうカイトとは友達でもなくなったってことだよね。


 私は近くにあったベンチに腰掛けた。まずは怒りに任せてカイトに言われた通りに連絡先を消した。大体普通はそっちが消すべきじゃないの?私は勢いそのままにカイトの映っている写真とカイトと関係のあるSNSの投稿も消した。やれることがなくなってさっきまではあんなに怒っていたのに段々と悲しくなってきた。本当意味がわかんない。一体いつから私じゃない好きな子がいたんだろう。告白してきたのはカイトの方からなのに。私にとって初めての彼氏だったのに。私は毎日が楽しかったけど、カイトはそんなことなかったのかな。涙が溢れてきそうになったのが分かって、必死に堪えた。私はベンチに座ったまま、全く動くことができなかった。


 どれくらい時間が経ったんだろう。ずっとカイトのことを考えていた。未練はないと思う。まだカイトのことが好きなのかって聞かれても、嫌いって答えられる。それでもすぐに気持ちを切り替えられないくらい、私にとってはカイトと一緒にいた時間は楽しい思い出だったんだなって思う。そう思うと悔しくて苦しくなった。どうせカイトは私のことなんか既に忘れていて、同じバイトの子のことばかり考えているんだろう。それなのに私はカイトのことをずっと考えなきゃいけない。私はいつまでカイトのことを考えていないといけないのかな。早く私の頭の中から出ていってほしい。

 

 ふと私の名前を呼ぶ声がして、声がした方を見るとアザミがいた。どうやらもう五限目の講義が終わったみたいだった。私はそんな時間までここにいたんだ。そんな時間までカイトのことを考えていたんだ。もうつらい。私はこの先いつまでカイトのことを考えていないといけないんだろう。アザミは私の心配をしてくれたけど、正直それに応える気が起きなかった。それでもアザミは私に優しくしてくれた。アザミは自分のハンカチで私の涙を拭って話を聞くよって言ってくれた。あれ、前にもこんなことがあった気がする。そうだ、高校の時もアザミは私がつらい時に優しくしてくれたんだ。もう誰でもいい、話を聞いてもらって自分が楽になりたい。


 私はアザミに話した。話を聞いたアザミは黙ったままだった。そうだよね、他人の失恋話なんて迷惑なだけだよね。私は申し訳ない気持ちになって、すぐにアザミに謝った。そしたら逆にアザミに謝らせてしまった。アザミは優しいから私に気を使っているんだと思う。アザミにこれ以上気を使ってほしくなくて私は笑顔を作った。でもちゃんと笑顔ができている自信はなかった。それに、アザミに話を聞いてもらっているのに、未だにカイトのことを考えている。明日は一年記念日のデートだったのにな。


 急にアザミが明日代わりに行くよって言ってきた。もしかして私、声に出てたのかな。アザミを見ると、私が返事をしないからか、あたふたしていた。その様子がおかしくて笑っちゃった。アザミは優しいから私を気分転換に誘ってくれたんだと思う。もしかしたら場を和ませる冗談だったのかもしれない。でも、このまま明日も一人でいたら多分すごく苦しい。私はアザミに甘えることにした。せめて明日は楽しもう。友達と遊んでいたら少しは気が紛れると思うから。今日は誰かに話を聞いてもらえてよかったかもしれない。少なくてもこのベンチから動くことはできたから。

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