第2話 大学②
予鈴がなり、講義が終わると教室にいた学生たちは次々と教室を出た。今からは昼休みだから、昼食を取りに行っているんだと思う。
「サクラ、私たちもお昼食べにいこう。今日も売店でいい?」
「いいよ。あ、今日のお昼は私たちだけね」
「え!?ケイコちゃんとフウカちゃん一限目終わりサクラと一緒にいなかった?」
思わず私は驚いてしまった。いつもは火曜日のお昼休みは私とサクラとサクラが一限目に一緒に講義を受けている一条景子ちゃんと霧島風香ちゃんの四人で昼食を取っているからだ。ケイコちゃんとフウカちゃんはサクラの友達で、私は大学一年生の時に知り合った。私の時間割は一人で受ける講義と火曜日の二限目の講義以外はすべての講義でサクラとケイコちゃんとフウカちゃんと一緒だ。サクラは私と一緒に受けない講義でもケイコちゃんとフウカちゃんとは一緒の講義がある。火曜日の一限目の講義もそうだ。それにラウンジでサクラと合流する前に確かにサクラはケイコちゃんとフウカちゃんに手を振っていた。
「うん、でも二人ともお昼は予定があるんだって。だから三限目からまた私たちと合流」
「そうなんだ…」
サクラの言葉を聞いて私は思わず喜んでしまった。今日はとってもいい一日!まさかサクラと二人きりでランチなんて、二人の時間が延長された!売店に着いた私たちは各々で昼ご飯を買ってからラウンジの空いている席に座り昼食を取り始めた。
「アザミと二人でお昼ってなんか珍しいね」
「そうだね」
珍しいどころか初めてだよ。嬉しすぎて逆に緊張しちゃう。全然落ち着かないけど、それでも幸せだって思っちゃう私は本当にどうしょうもないな。
「せっかくアザミと二人きりだし、恋バナに付き合ってもらおうかな」
「え…」
笑顔のサクラとは対照的に、私は浮かれ気分が一気に冷めていく。
「アザミ聞き上手だし、今なら茶化してくる二人もいないしね」
「し…仕方ないな」
おそらく今の私はぎこちない笑顔をしていると思う。そんなことはつゆ知らずサクラは意気揚々と話し続ける。
「流石アザミ!早速だけどこの前カイトがさ…」
本当は全然聞きたくない。今の私は上手く笑えてる?
サクラには今、交際をしている男の人がいる。交際が始まったのは大学二年生の時から。サクラにとって初めての恋人。サクラと二年生の時の少人数ゼミが同じだった人で、男の人の方から告白をしてきたみたい。ゼミでは仲が良かったからとサクラはその人の告白を受け入れた。私がサクラの交際を知ったのはサクラが交際を始めてすぐに彼氏ができたとみんなで昼食を取っている時に教えてくれたから。サクラに恋人ができるのは当たり前。美人で、可愛くて、誰に対しても優しくて。それでも私はサクラに恋人がいることを受け入れられない。私はサクラの話し相手に過ぎないのに。私のサクラへの気持ちは内に秘めておくことしかできないし、伝えるなんてことは絶対にしない。だからこの嫉妬はお門違い。私はサクラの笑顔が見れるだけで十分。
私の初恋は小学五年生の時だった。好きになった子はいつも私の手を握ってくれて、そばにいてくれた女の子。私はどこに行くのもその子と一緒だった。小学五年生の一泊二日の校外学習の宿泊部屋も一緒だった。
その日の夜、同じ部屋の子たちが恋バナを始めた。私はそこで好きだった女の子に私に好きな子がいるのかを聞かれて、そのままその子に私の恋心を伝えた。あの時の私は女の人が女の人を好きになってもおかしいことじゃないって思っていたから。その子の反応は最初は笑っていて私の冗談だと思っていた。私が本気だと伝えると今度は友達としてと捉えていた。私の気持ちが友達に対してのものではないと気づいたときにはひどく困惑していた。振られたわけでもないのに、それでも嫌がられている様子を見て私は何が何だかわからなかった。ただ、その子の私に対して得体のしれないものを見ているような顔だけがずっと頭の中から離れなかった。
その後は同じ部屋にいたほかの子たちからクラスに話が伝わり、男の子からはからかわれて、女の子からは引かれて、好きだった女の子からは距離を置かれて、それからは話をすることすらなかった。そうなって初めて私は女の人が女の人を好きになることはおかしいことだとわかった。小学生の間は誰かと話すことが怖くなって、ずっと一人でいた。小学生の同級生と一緒の中学校に行くのが怖くて、中学校は私立の女子校に入学した。中学校生活では、もう誰かを好きにならないと決めていたし、私のことを知っている人もいなかったので、それなりに友達もできた。それでも私は自分のことは話さず、友達の話を聞くことが多かった。
サクラと出会ったのはサクラと初めて同じクラスになった高校二年生の時。サクラの第一印象は、とにかく美人でいつも笑顔の子。私にはサクラは楽しそうに毎日を過ごしているように見えた。私はキラキラしているサクラを、私とは違うサクラを、ただ羨ましそうに見ているだけだった。私はそのままサクラを見ているだけでいるべきだったのに。
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