この素晴らしい離婚に祝福を

無雲律人

この素晴らしい離婚に祝福を

「離婚おめでとーーーー‼」


 友人たちに祝福されて、私は今日自由の身になった。今日は私の離婚のお祝いに、高校時代からの友人のエミリ、カヨ、マナミが集まってくれている。


 はモラハラ、ギャンブル、浮気、とにかく何でもありのクズ野郎だった。だから私は彼から逃げ出す事にした。


「結婚していた時は豪邸に住んでたけど、離婚したらワンルームのアパートかぁ。でも、自由を手に入れられたんだし、贅沢は言っていられないわよね」


 六畳ワンルームに四人でぎゅうぎゅうずめになりながらのお祝いだけど、私の心はとても穏やかで晴れ渡っていた。狭いながらも楽しい我が家。住めば都って言うじゃない?


 元夫は一流商社のエリート会社員で、私はタワマンの上層階に住むだった。でも、元夫はさっきも言った通りのクズ野郎だから、その住処は私にとっては監獄みたいなものだった。


「それにしてもさ理香子、今日離婚届を出して来たって言ってたけど、区役所には一人で行ったの? 敦夫さんは?」


 やっぱり来たわね、この質問。


 大丈夫、私は


「敦夫は今日もどうしても仕事で休めなかったって。最後まで離婚に抵抗していたし、判は押させたけど納得はしていなかったみたいね」

「それにしてもあのハイスペの敦夫さんがモラハラ、ギャンブル、浮気ねぇ。モラハラと浮気は分かるけどギャンブルって……」

「ネットで賭け事に手を出していたみたいで。借金が二千万円もあったのよ」

「嘘でしょー!? 凄いわねぇ、人は見た目によらないわね。凄く優しそうで人の良さそうな旦那さんだったのに」

「外面が良いだけよ」

「そうかしら……?」

「何よ、エミリ、何か疑問でもあるの……?」


 エミリは私の顔をじっと見つめると、「ふっ」と笑った。


「あたし、見たのよね」

「何をよ……?」

「理香子がランラン金融のATMから出てくるところ」


 何ですって……? あれをエミリに見られていたって言うの……? まずい。この流れはまずいわ。


「人違いじゃない? 私みたいな容姿の人って沢山いるから」

「ううん。あれは確実に理香子よ。いつものエメレスのバッグを持っていたもの」

「そ、そんな……。でも、あんなバッグ、ショップに行けばいくらでも売っているし」

「ううん。側面に引っ搔いたような傷があったの。理香子のバッグと同じ傷よ」


 なによ……! なによなによ! だから何だって言うのよ! 私がランラン金融から出てきたから何だって言うのよ!


「それにね、あたし、さらに衝撃的な場面も見ているのよね」

「ちょっ……エミリ、その辺でやめなよ……」

「そうよエミリ……」


 さらに暴露話を続けようとするエミリをカヨとマナミが止めに入る。


「あたしはやめないわよ。ねぇ、理香子。この間ラブホテルから一緒に出て来たこの人、誰?」


 そう言うとエミリはスマホを私たち三人に見せるように置いた。そこには私と腕を組んでラブホテルから出て来る若い男性の姿が映っていた。


「ちょっ……何よこれ……いつの間に……?」

「えっ。理香子、何これ……」

「あの真面目な理香子が……? 信じられない……」

「ねぇ、この男誰よ、理香子!」


 私はそのスマホを掴むと、部屋の窓を開けて投げ捨てた。


「良いわよ。スマホなんていくらでも壊していいわよ。あたしはもっと確実な証拠を沢山掴んでいるから」

「何がしたいのよ、エミリ……」


 私はエミリを睨みつける。この女は私の敵だ。私の自由を邪魔する敵だ。


「ねぇ、敦夫さん、今日は仕事なんかじゃないでしょう? 仕事なんてとっくの昔に退職しているでしょう? っていうか……」

「何が言いたいのよエミリ!」

「ずばり言って良いわけ? 困るのはあなたじゃない?」

「うっ……それは……」


 私は私のを完璧に演じて来たつもりよ。なのに、エミリ、この女が私の秘密を握っているって言うの……?


「××山、三合目付近の雑木林」

「……え……?」


 何ですって!? そこまで知られているの!? エミリ……この女もならないのか……。


「今頃警察が掘り返しに向かっているわ。それと、あなたも直に逮捕されるはずよ、理香子」


 カヨとマナミは顔を合わせて困惑している。


「ちょっと、何なのエミリ……どういう事……?」

「そうよエミリ、わたし達にも分かるように説明してよ」


 エミリは長い髪を掻き上げると、私をじろりと睨みながら口を開いた。


「理香子、あなた、敦夫さん名義で多額の借金をした挙句、彼を殺して山に埋めて

、それで間男とどこかに逃げるつもりだったんでしょう? だから、新居もかつ、実際はお金が無いからこんな安アパートなんでしょう?」

「何で……エミリがそんな事知っているのよ……」


 胃がキリキリとしてきた。だって、この女が言っている事は全て事実なんだから。


「敦夫さんは本当に素晴らしい人格者だったわ。優しすぎるくらいに優しかった。だから、あたしの探偵社にあなたの浮気調査を依頼した」

「え……?」


 エミリが探偵ですって? そんな事聞いてないわよ!?


「あたしが探偵社の代表だとはあなたには言ってなかったわね。何せ公にするような職業じゃないから。敦夫さんはあたしの探偵社にあなたの浮気調査を依頼して来て、あたしはそれを受けた。そして、あなたを調査している間に敦夫さんは謎の退職をして姿をくらませた」


 私はもうぐうの音も出ない。敦夫の奴、いつの間にこんな女に私の浮気調査なんて依頼していたのよ!


「そこから先はあたしの独断で動いていたのよ。あの人が好い敦夫さんが急に姿をくらますわけないもの。それで、間男方面から探って行って、敦夫さんを埋めている場所をついに探し出したってわけ」

「あの野郎! 裏切ったのね!」

「ついに本性を現したわね、理香子」

「あんたもあんたよ! 何が探偵よ! 私の幸せをぶち壊してどう責任取ってくれるって言うのよ!」

「何が幸せよ! 優しい旦那様を裏切った挙句、借金を擦り付けて殺して、さらには離婚届を偽装した挙句に間男と逃げる? あなたこそ最低最悪のクズ女じゃない!」

「うっ……」


 身体に力が入らない。終わった……。全て明るみに出てしまった。私のお祝いは惨劇に変わってしまった……。


「そもそもね、離婚祝いのパーティーを開くっていう事自体がちょっとずれてるのよね。理香子のそういうずれてる所、学生の頃は面白かったけど、アラフォーともなるとさすがに笑えないわ」

「理香子……信じてたのに……」

「わたしもショックよ理香子……」


 何よ。何よ何よ。みんなして私を責めて。そもそも敦夫が何の面白味もない亭主だったからいけないんじゃない! 若い男との刺激的な恋に溺れて何が悪いって言うのよ!


 ──ピンポーン


「ほら、お迎えが来たわよ、理香子」


 エミリはスッと立ち上がると、玄関のドアを開けて何人もの警察官を家の中に引き入れた。


「竹垣理香子だな。竹垣敦夫死体遺棄容疑で逮捕状が出ている」


 足に力が入らない私を、二人の警察官が引っ張り上げて無理矢理に歩かせる。


「この恨み……忘れないから……エミリ……!」

「あなたのちんけな恨みなんてどうでも良いわ。敦夫さんの無念の方がよほど気の毒よ」


 クソッ。


 クソッ! クソッ‼


 今日は私の新たな人生のお祝いのはずだったのに! 浮かれて離婚祝いなんてしなければ良かった。離婚を成立させたら間髪入れずにリュウヤと逃げれば良かった。


 何で私、こんなバカな事したんだろう。そもそも、リュウヤは今日も私の所に来る約束なんてしていない。彼と会うにはなのよ……。


 リュウヤに貢いで作った莫大な借金をチャラにして、離婚を成立させてささやかながらも一人暮らしをし始めたら、リュウヤは私の所に来てくれるって思ってた。でも、さっき届いたLINUには『僕に会いたい時は予約を入れて』って書いてあった。

一緒に敦夫を埋めた共犯のくせに、全てを私のせいにして逃げるつもりなのよあの男は! 私がいくらリュウヤに貢いだか分かっているの!? 二千万円よ!? 敦夫には女性専用風俗のセラピストにそんなに貢いだだなんてとてもじゃなくて言えなくて、結局殺す羽目になったのよ! 


 どいつもこいつも……私の思い通りにならない……!


 クソッ。クソがっ‼


「おい、竹垣理香子、しっかりと歩け」


 ちくしょうめが。次にお祝い出来るとしたら出所の日なのかしら。私の境遇に憐れみを感じて無罪判決なんてもらえたりしないかしら。


「しっかりと罪を償って来てね、理香子……」


 憎らしいエミリが私に声を掛ける。私はそれを無視して警察官に促されるがままに歩く。


 今日は離婚記念日であり私の逮捕日だ。人生最悪の日だ。本来なら私はみんなの祝いを受けて有頂天なはずだったのに。


 ああ……何でこんなに人生上手く行かないんだろう。こんな事なら、高給取りだった敦夫に一生ひっついていれば良かった。


 そんなの、覆水盆に返らずってやつよね。


 最悪だわ。


 最悪よ。


 この世の中、クソみたいなものだわ。



────了

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