第6話 どうしようも出来ない現実

 谷本はゲイだったんだ。性的嗜好が男性。ところがあんな家に生まれてしまったばっかりに、したくもない相手と結婚させられて後継ぎとなる子供を持つことを半ば強制される。だから家の外で男の娘あいじんを抱えることにした。

 結婚相手はあくまでも谷本の子供を産む道具でしかない。そのためだけの相手であり、性欲が湧くこともないから性的関係が生じることもない。

 もしかしたらご両親も谷本の性的嗜好に気付いているのかもしれない。いや、恐らく気付いていて敢えて放置しているのだろう。

 谷本家が欲しいのは谷本の血の入った後継ぎだけであり、何だったら谷本の妻になる女は後継ぎが生まれた後は子供さえ手元に確保してしまえば離婚しようが何しようが知ったことではないから。

 身震いする。トンでもない相手と結婚するところだった。


 店を出て繁華街の方に向かう。目指す店は駅に程近い路面に面している。

 さっきのことがあったばかりで衝動的と言われるかもしれないけど目指した店に入ってしまった。ここは高級ジュエリーショップ。

 迷うことなくスタッフを呼び止めて要件を伝える。スタッフは要望を即座に理解して事務的に手続きを進めてくれた。納期は三週間後。


 プロジェクトの成果である新食感の新製品は販売が好調で市場からの評価も上々だ。もちろん社内からもポジティブな声を聞いている。

 今回の件は今回の件として予定通りにプロジェクトは終了する。しかしながら今回のプロジェクト成功を受けて新たな組織横断プロジェクトを不定期で立ち上げて新商品の開発を行っていく検討が行われるようになるとも聞いている。


 遂に特別プロジェクトの成功と解散の打ち上げの日がきてしまった。この打ち上げがプロジェクト最後の公式イベント。来週からメンバーは散り散りとなり元の職場に戻る。

 同じ社内にいるとは言え、営業部の中野さんとは頻繁に会えなくなる。だから今日、親しくなった中野さんに正直に自分の気持ちを伝えようとプレゼントを用意してきている。


 打ち上げも終盤。いつお開きになってもおかしくない頃合い。気付いたら中野さんの姿が会場内にいないことに気付いた。トイレに行く振りをして会場の内外で中野さんを探そうと階段の手前まで来た時だった。

──前から中野さんのこと良いなと思っていたんだ

 ハッとする。すぐ先の廊下の陰から聞こえてきた告白。そっと覗けば会社一のイケメンと噂の高い小金井くんが中野さんに告白している。

 小金井くんの告白を断るような女はいないだろう。それは中野さんとて例外ではない。だって幸せがそこにあるのだから。

 もうその場から一歩も動けない。前に出て行くことが出来ない。目の前で中野さんが私以外の人に浚われていく現実を止めるすべを只の女である私は持ち合わせていない。

 どうにか後ずさりすることが出来た私は渡すはずだったプレゼントの入った紙袋を手にしたまま打ち上げ会場からそっと立ち去った。

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