第4話


 翌朝、アンネリーエの優しい声に起こされた。


 見慣れない天井にハッとし、部屋を見回す。昨日助けてくれた三人を見て、やっぱり夢じゃなかったんだと重たい気持ちになった。


「朝からしけた顔」

 目が合ったエメリヒに朝から嫌味を言われムッとする。だが助けてもらってから迷惑ばかりかけている自覚はあったので我慢。


 ベッドから起きて濡れタオルで顔を拭いた後、学生カバンから通勤用に入れていた鏡を取り出す。ベッドに腰かけ、いつもの癖で身だしなみをチェックしようとしたのだが、鏡に映った自分の顔に違和感がある。

「…?」

 あれ…肌ツヤがいい?昨日大変な目に遭ったのに、肌に出てない?…ていうか、何か顔が若い?高校の時みたいにほっぺたがパンパンで丸いんだけど…。


 そこまで考えてゾワリとする。


 この世界で目が覚めた時、私の服装は通勤に着ていた服ではなく高校の制服になっていた。


 まさか、年齢も高校生に戻っている…?




 そういえば…思い返せばエルンスト達の言動はどれも未成年に対するものだった…気がする。


『ブンゲルト領の子だろうか?』

『成人前だとしても』

『この子を置いていくことはできない』

『女の子を床に』




 西洋人から見ると日本人は幼く見えると聞くから、そう言われてるのかと思ってたけど、本当に高校生に戻っているのだとしたら?


 制服を見る限り、真新しい。もし今が高校一年の入学式だとしたら、まだ誕生日を迎えていない私は十五歳になる。もし十五歳だとしたら、彼らから見ればさらに幼く十二、三歳に見えたのかもしれない。私を子供だと思って保護してくれていたのかも。


 そう考えれば助けられた後、水を分けてくれたり、私の体調を気遣ってくれたり、金銭を要求されなかったのも頷ける。


 本来の年齢、二十一歳だと、正直に言うべきだろうか?でもそれを話すなら事故に遭ったことから説明しなくちゃいけなくなる。それはリスクが高い…。




 だけど、どうして高校一年生なんだろう?

 事故に遭った時、『いろいろなこと…やっておけばよかった』と後悔したからだろうか?


 …確かに高校入学直前に父が亡くなって期待していた高校生活ではなくなった。

 家事と弟妹の世話と学業、それにバイト…。

 正直、社会人になってからも家のことと仕事、それだけで手一杯だった。

 そんな中にあった楽しみが『クライゼル』であり、希望になったのが『平塚涼一さん』だった。それも二股という惨めな結果に終わったけど。


「……」


 だから高校生に戻った?

 もし父が死ななかったら、謳歌できていたかもしれない日々を、やってみたかった?

 心のどこかで、私はずっと…やり直したかった…?







「おい、腹減りすぎて声も出ないのか?さっきから呼んでるだろ」

 ヌッと目の前に突然美少年の顔が現れた。

「ひぇっ」

 考え事をしていた私は、驚いた拍子にベッドからずり落ちそうになる。が、エメリヒに腕を掴まれ難を逃れた。


「何やってんの」

 エメリヒの「どんくさいヤツ」と言わんばかりの態度にムッとする。

「いきなり奇麗な顔が出てきて驚いたの!」

 思わず言い返すと「奇麗…だと?」と愕然とするエメリヒ。

「ふっ…」

 会話が聞こえたのだろう、エルンストが肩を震わせる。

「よかったな、エメリヒ。褒められて」

 笑いを堪えるエルンスト。それに言い返そうとしたエメリヒを遮り

「ほらほら、食堂に行くわよ。朝食の時間が終わってしまうわ」

 アンネリーエの仲裁が入り、全員で一階の食堂に移動した。

 エメリヒは「男に奇麗って褒めてないだろ」とブツブツ文句を言っていたけど。




 朝食後、昨日できなかった私の「知り合い探し」をした。

 町役場や人通りが多い広場周辺のお店や飲食店など、私のことを知らないか一緒に聞いて回った。


 もちろん知り合いなど見つからなかったけど。


 ただ、町の様子は知ることができた。


 行き交う人達の服装や手にしていた道具は、中世ヨーロッパ時代を思わせ、全てがアナログだった。

 だがその反面、この宿での食事は美味しく、シャワーもお風呂もないが共同ではあるものの水洗トイレはある。安全性は定かではないが飲み水も無料で提供してもらえた。


 おそらくこの国は発展途上、真っ只中。




 そんな世界に来てしまったのか…。

『やり直したい』と思った世界が、自分の望む世界とは限らないということだろうか。

 日本社会でも生活に格差はある。とは言え生活水準が低くても、この世界よりは快適だったと言えるだろう。


 私、この先どうなるんだろうか…。


 いろんな意味で不安だけが膨らむ結果になった。







 そして宿屋に戻り夕食を取った。

 その後、私は彼らがこのブンゲルト領に来ることになった本当の事情と、今後の提案を受けることとなった。





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