第三話 それ行け駆け落ち逃走団!

 聖真面目クソマジメ王国、地下ダンジョン・中層エリア――


「ハァ、ハァ……。なんで王族の私が、こんな全力疾走をせねばならんのだ……」

「文句言わないで走る! 置いていくわよオスカー!」


 地下通路を揺らす八人の足音。

 先頭を走るのは、ジャージ姿のリリアと筋肉庭師ガストン。

 最後尾では、オークのグルルさんに王妃様がお姫様抱っこされ、「あらあら、風が気持ちいいわね」と優雅に微笑んでいる。


「待てーっ!!」


 背後から城の警備兵たちの怒号が迫る中、一行の前に第一の難関が立ちはだかった。




【第一関門:『嘆きの鉄格子』】


 通路を完全に封鎖する、極厚の鉄格子――


「くっ、行き止まりか!」


 焦るリリアに対し、オスカー王太子が前髪を払いながら前に出た。


「ふっ、慌てるな庶民ども。この扉は王家の紋章が入った、この『マスターキー』がなければ開か――」

 オスカーがポケットから黄金の鍵を取り出した瞬間――背後から走ってきたドジっ子メイドのメアリーが、何もないところで盛大に転倒した。


「きゃあっ!」


 ドーン!


 メアリーの頭突きがオスカーの腰にヒット。


「ぐへっ!?」


 手から滑り落ちた鍵は、美しい放物線を描き――鉄格子の向こう側の排水溝へ、チャポンと落ちた。


「「「あーーーーーっ!!!」」」

 全員が絶望の声を上げる。


「殿下ぁ~、申し訳ございませ~ん」

「いいんだメアリー。その計算された角度の頭突き、実に愛おしい!」

「イチャイチャしてんじゃないわよ、このバカップルがっ!」


 リリアがキレた。


「ガストン、やんなさい!」

「ウィ、お嬢様!」


 ガストンが鉄格子の前に立つと、シャツの繊維が弾け飛んだ。


「フンッ!!」


 彼が鉄の棒を掴んで広げると、グニャリ、と飴細工のように曲がっていく。


「はい、通りまーす!」

「こんなんで通れていいのか、『嘆きの鉄格子』!」


 一行はひん曲がった鉄格子をすり抜け、さらに奥へと進む。




【第二関門:『魔導ゴーレム・マークV』】


 広間に躍り出た瞬間、巨大な岩の巨人が立ち上がった。


『侵入者検知。排除シマス。排除シマス』


 眼から赤いビームを放つ、城内最強の防衛システムだ。


「うぎゃあ~! あんなの勝てないわ!!」

「母上! オークのグルルに戦わせて!」

 オスカーが叫ぶ。しかし、王妃様は困った顔で首を振った。

「ダメなのよ。グルルさんは『争いのない世界』を求めて森を出た平和主義者なの。暴力は大嫌いなのよ~」

「なんでそんなのと駆け落ちしたんだよ!」


 ゴーレムが巨大な拳を振り上げる。


 ああ、絶体絶命……


 その時、宰相である厳格公爵が前に躍り出た。


「フフフ……ここはワシとリュリュ君の出番のようだな!」

 公爵はリュックからリュートを取り出し、アンプ代わりの魔道具に接続した。

「喰らえ! 地獄の底から這い上がる、魂の叫びデスメタルを!」

「いくよプロデューサー!」


 ジャアアアアーーーン!!!!


 耳障りな不協和音が周囲に響く。


『オマエだけをォオ! 愛してルゥゥゥゥーーっ!!』


 公爵の破壊的な演奏と、吟遊詩人の超音波的な高音シャウトが地下空洞に反響する。

 それは音楽というより、音響兵器だった。


『エラ…ー…音声回路…崩壊…システム…ダウ…ン……』


 ゴーレムの全身のクリスタルにヒビが入り、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「やった! ゴーレムが機能停止した」

「リリア、宰相殿の歌があんなに殺傷能力高かったなんて知ってたのか?」

「それは……実の娘として、今すぐ鼓膜を捨てたいわ」




【最終関門:『鉄壁の騎士団長』】


 ついに出口の光が見えてきた。

 しかし、その前に立ちはだかる男が一人。王国最強、騎士団長ダリウス。強面で、身長は二メートル近い。鈍器のように重そうな大剣を抜き放ち、構えていた。


「お待ちしておりました……」

 ダリウスの低い声が響く。八人は急ブレーキをかけた。


「ダリウス…どいてくれ!」オスカーが叫ぶ。

「私はこのメアリーと生きるんだ!」


「なりません、殿下。王族の責務を放棄するなど……」


「うるさい! 私はもう、完璧な王子なんてまっぴらなんだ! 私は……私は本当は、ダメなところも含めて愛されたいんだ!」

 オスカーの魂の叫びに、ダリウスの眉がピクリと動いた。


「…………」


 沈黙が流れる。そして、ダリウスはゆっくりと剣を下ろし、鎧の隙間からゴソゴソと何かを取り出した。

 それは、ピンク色の可愛らしい『ウサギのぬいぐるみ』だった。


「……実は拙者も、限界でごわした」

「えっ?」


 強面の騎士団長は、ウサギのぬいぐるみを頬にスリスリと押し付けた。


「『男らしくあれ』『鉄壁であれ』……そんなプレッシャーに耐え、隠れて『モコモコちゃん』を愛でる日々はもう疲れ申した。拙者も……拙者も、可愛いものに囲まれて暮らしたいのでごわす!」

 ダリウスの目から涙が溢れる。

「殿下、連れて行ってくだされ! この国にいると、モコモコちゃんが没収されてしまう!」


 リリアが呆然と呟いた。

「……この国の重役、ストレス溜まりすぎじゃない?」


 こうして、最強の騎士団長(とウサギのモコモコちゃん)がパーティに加わった。

 もはや城内に敵はいない。


「道は開けたわ! 全員、太陽に向かってダッシュよ!!」


 リリアの号令で一同は、朝日が差し込む出口へと雪崩れ込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る