第2話

「ごちそうさまでした~」


「ノノアちゃん、今日は頑張ったんだね。おかわりまでしちゃって」


「そうなんですよ~。今日は私の冒険者史上最高報酬額だったんです!」


 持ち帰った薬草は需要が多く売値がいつもの1.5倍、キノコさんは1本銀貨1枚以上。10本の納品で金貨1枚と銀貨5枚という破格の買い取り額でした。しかもレア物は温存。お金に困ったらこれを出せば、しばらく食いつなげます。


 ここまで儲かれば、スペシャルプレートを二人前くらいたやすいものです。


「いつもは安い定食でお腹を空かせているからおばちゃん心配してたんだよ」


「そうなんですか? それならこっそりと大盛にしてくれてもいいんですよ?」


「そうだね、大盛は5割増しだから、お値段も5割増しだよ」


 おばちゃん、そこに商売っ気は出さなくてもいいんですよ。


 こっそりと大盛にしてくれればいいんですから。


「お、ノノア。無事に帰ったのか?」


「ディーン兄。今日は討伐対象が多かったからね。レアなものも見つけたから奮発してるんだよ」


「そうか。おばちゃん、俺にもスペシャル大盛で頼むよ」


 ディーン兄め、わざわざ私の目の前で普通にスペシャルプレートを大盛で頼むとか、喧嘩売ってるんですかね?


「それでディーン兄はどうだったの?」


「ん? 案の定水源で魔獣同士の争いでもあったのか、魔獣の死体が大量に転がっていてな。腐乱状態でなかなか悲惨な現場だったぞ」


 お肉を食べながらよくそんな話ができますよね。


 どうでもいいですが魔獣の死体で汚染された水で食事をしてたんですよね……


 若干胃がむかむかしてきました。もちろん食べすぎじゃないですよ。


 聞くんじゃなかった。


「ディーン、それじゃあ水質は?」


「ああ、ギルドにも報告したけどそのうち改善すると思いますよ」


「そうかい、それは良かったよ。今朝はノノアちゃんが食べ残しで出かけるもんだから、相当味が落ちているのかと心配してたんだよ」


 え、食べ残し?


 そんなはずは……あ、スープが残ってたかな? もったいないことをしました。


「あれ? おばちゃん寝坊したんじゃなかったの? いつもと味が違ったから寝坊でもして仕込みの時間がなかったんだと思ったよ」


「そんなわけないだろ? 朝の仕込みは夜のうちからやるんだよ」


「ノノア、だから言っただろうが。水の味が変わったから料理の味が変ってるって」


「違うよ、ディーン兄は最近飯が不味くなったって言ったんだから」


 あれ? おばちゃん顔が引きつっているけど……気のせいだよね。


 悪いのはディーン兄だし。


 さて、お腹もいっぱいになったし、今日は早く寝ようかな。


 それから数日。懐の温かな私はギルドの仕事もせずにゴロゴロと過ごしていたのですが、一大事件が起きてしまいました。


「おばちゃん、おはよ~っていないし」


 それに朝の食堂に人が少ないのが気になります。


「ノノア、やっと起きたか。フィオナが呼んでるからギルドまで急いで来い」


「ディーン兄、私朝ごはんがまだだよ。朝ごはんは一日の活力の源だよ」


「急ぎだ、屋台で済ませろ」


「屋台のご飯は高くて少ないからお断りします」


「奢ってやるから急げ」


 え、今奢ってくれるって言った?


 よし、行こう。すぐに行こう。さあ早く。


「ノノアちゃん、最近街で変な病気が流行っているでしょ?」


「もぐもぐもぐ」


「ポーションの在庫が少なくなってきたのよ。しかもあまり効果が出てないみたいなんだけど、先日納品された薬草で作ったポーションは新しいためか、在庫していたものより効果が高いみたいなの。だからたくさん集めてきてほしいのよ」


「シャクシャクシャク」


「なあ、ノノア。食べながらフィオナの話を聞くんじゃない」


「ん。食べ終わるまで待っていてくれればいいのに、引きずって私を連れてきたのはディーン兄でしょ。レディーの食事の邪魔したらダメだよ」


 奢ってもらったのは感謝しますが、食事の邪魔は許さないですよ。


「それじゃあ、私は薬草採取に行けばいいんですね?」


「違うわよ。薬草の採取地を教えてほしいの。もちろん情報料は払うわよ」


 あそこを教えたら、私のハッピー薬草採取で左団扇生活が崩れてしまう。何としてでも阻止しなければ!


「ちなみに報酬額はこのくらいで」


「はい、森の奥の湖のほとりに大量に生えていました。長雨で湖の水が増水していたので足元がぬかるんでいたので、足回りの装備は気を付けた方がいいですね。あと薬草が泥だらけになっていると思うので、汚れてもいい服装や収納袋があると便利だと思います」


 あれ? 皆さんどうしたんですか? なんか引いていませんか?


「あ、ありがとうございます。まさかこんなにあっさりと教えてくれるとは……」


「……ノノア、ところで報酬っていくらだったんだ? まさかそんなにあっさりと情報を渡すと僕は思わなかったよ」


「ベアくん、だって情報料金貨10枚だよ。これでしばらく引きこもり生活ができるじゃない」


「え?」


 フィオ姉が私に渡した依頼書を再び確認して顔を青くしているようですけど……


「ノノアちゃん、金貨と銀貨を間違えて書いちゃったみたいなんだけど……」


「フィオ姉、これはギルドから私に出された正式な依頼ですよ。修正は認めません。情報はすでに提供済みなのでお支払いをお願いします」


「いやーー! 赤字じゃない! ノノアちゃん」


「お支払いをお願いいたします」


 フィオ姉はこの後ギルマスに怒られたみたいですが、事態が緊急ということもあり無事に報酬をお支払いいただけました。


 こんなおいしい仕事ならいつでもウェルカムですよ。


「……ところで私が呼び出されたのって、情報提供だけですか?それなら帰ってゴロゴロしたいんですけど」


「そんなわけないでしょ。何のために情報提供してもらったと思っているんですか? 他の冒険者を向かわせて、ノノアちゃんには別の依頼を出すためです」


 フィオ姉は頭を抱えてため息交じりで話し始めました。


 なんでしょう、この危機感は。


「あ、急にお腹が痛くなってきた」


「無視していいぞ」


「できればディーンさんと同格の人にお願いしたいところなのですが、あいにく……」


「他は流行り病にやられたらしくてな。動ける冒険者でランクと活動歴を見るとノノアが対象になったんだよ。俺の足を引っ張るなよ」


「足を引っ張る自信があるので、この依頼は辞退させていただきます」


 丁寧に頭を下げてお断りした私の襟首を捕まえて、ディーン兄は引きずりながら連れ出してしまいました。


 さよなら、私の安息日……笑顔で手を振るフィオ姉が恨めしく見えてきます。


「ノノア、あきらめた方がいいよ。ここでちゃんとやればランクアップも夢じゃないから。早いところ安宿暮らしを抜け出したいんでしょ?」


「そうだぞ、そのクマの言うとおりだ。ところで毎回思うが、喋るぬいぐるみってのは不思議なものだな。お前さん魔道具か何かか?」


「僕自身も自分の正体を知らないからね。まあ優秀なノノアの相棒だとでも思ってくれよ」


 ギルドが用意した馬車に放り込まれて、私はどこかに連れていかれるようです。


 いったい私に与えられた依頼って何なんですかね?


 薬草採取ならまだしも、厄介ごとの株価が急騰しそうです。

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