ノノアのお気楽冒険者日記

明日はきっと

第1話

「うわ、やばっ、寝坊した~!」


 低ランク冒険者の私は、朝一でギルドに行かないといい仕事がもらえないのに……やらかした。


「ベアくん起きて! ってもう起きてるか。急ぐよ」


「ノノア、僕は何度も起こしたんだよ。まったく君は学習しないな」


 急いで着替えて、装備を整える。


 相棒のベアくんを肩の上に載せて宿の一階へと向かい、階段を飛び降りる。


「お、寝坊助がやっと起きたか。ご飯できてるよ。食べていくんだろ?」


「おばちゃん、ありがと。いっただきま~す」


 テーブルの上に載せられたサンドイッチにかぶりついて、程よく温くなったスープで流し込む。


 ん? 今日はおばちゃんも寝坊したのかな?



「気を付けて行っといで」


「は~い。行ってきます」


「あら珍しい、ノノアちゃんが食べ残していくなんてね」


 ギルド直営の安宿を飛びだし、向かいの冒険者ギルドにダッシュする。


 既に同期が入り口から出て、街の外へと向かっている。


 完全に出遅れた感じだよ。



「フィオ姉さん、まだ依頼残ってる?」


「ノノアちゃん、いつも言ってるでしょ」


「……ってことはやっぱり」


「いつもの薬草採取ね。最近ポーションの消費が増えているから、たくさん採ってきてね」


 肩の上のベアくんが私を慰めてくれているのですが……


「だから早く寝ろっていつも言ってるんだよ。また草むしりじゃないか」


「う~、わかっているよ。まあ今日は出遅れただけだから、明日からは大丈夫」


「そのセリフを週に2回は聞くけどね」


 相変わらず口が悪いな。


 今日も草むしりか……



 街から少し離れたところにある森は、私たち低ランク冒険者の仕事場です。


「お、ノノアじゃんか。今日はどうしたんだ? 森に向かっているってことは久しぶりに討伐依頼か?」


「ディーン兄、そうなんだよ。聞いて、今日はね……」


「薬草討伐と部位採取だろ。手慣れているとは思うが魔獣も出るだろうからな、気を付けて行けよ」


 悪い人じゃないんだけどな……その言い方やめてほしいよ。


「ディーン兄は討伐依頼?」


「いや、調査だな。ノノア、食いしん坊のお前なら気づいていると思うが最近、飯が不味くないか?」


 そう言えば最近の料理はちょっと苦かったり、変なにおいがするけど……何か関係あるのかな?


「この街の水源が怪しいんじゃないかって調査依頼が来たんだよ。山の奥だから初心者向けの案件じゃないんだが、連れて行ってやろうか?」


「うれしいけど、私には別途重要な任務があるからね。またの機会にお願いするよ」


「そうか、それじゃあ俺たちは行くからな。ノノアも気を付けろよ」


 手を振りディーン兄に別れを告げ、私は森の奥を目指します。



「あ~、遠いよ~」


「仕方がないだろ、ノノアが早く起きないのがいけないんだぞ」


「ベアくん、前方を見てごらん。私より先にギルドに行った人たちも同じ森を目指しているんだよ。ということは他の依頼も森が目的地というわけ。つまり、早起きしてもこの長い道のりを歩く必要があったということだよ」


 ベアくんは私の肩の上に乗っかっているだけなので移動は楽ですから、文句ぐらいは聞いてほしいものです。



「ベアくん、こっちでいいかな?」


「ん? ちょっと待ってろ……湖の近くだな」


 ベアくんに魔法を使ってもらいます。


 探知系の魔法でとても助かっています。


「湖か~、結構奥だよね。まあ探し回るよりいいか。行くよ」


 ベアくんを再び肩の上に乗せて森の奥へと進みます。


 みんなは私の相棒を笑いますが、魔法が苦手な私にとって大事な存在なのです。


 ベアくんの索敵のおかげで、魔獣に襲われることなく目的の湖に着いた私は早速、薬草採取……じゃなかった、薬草討伐に取り掛かります。


 自分でいうのも情けない話ですが、草むしりを大げさに言っているだけです。

 気にしないでください。



「お、群生地発見! さ、ベアくん、採取するよ」


「討伐じゃなかったのか?」


「いいの、いいの。それより草の匂いがすごいね」


 見れば水辺に大量の薬草が生えているじゃないですか。


 これは通常の倍、いや3倍くらいは稼げるんじゃないかな?


「ノノア、これ見てみろよ。薬草に花が咲いてるぞ。きっとレアものだぞ、高く売れるんじゃないか?」


「何っ! それは見過ごせないな~ これで今日の稼ぎはさらにアップですね~。野望に一歩前進です」


「……いや、ノノアが欲しいのって家と、引退後の生活費だろ? 全然足りないと思うぞ」


 皮算用で緩んだ顔を引き締めて、草むしりを始めます。


 ベアくんの言う通り赤や黄色の花をつけた薬草が生えています。


 甘い香りが漂っているので、地味な採取も少し楽しくなりますね。


 たまにこの湖まで採取に来ますが、ここまで薬草が生い茂っているのは初めてです。

 少し前に長雨が続いたせいで、湖の水が大分増え足元がぬかるんでいます。


 あ~ブーツが汚れちゃいました。歩きにくい上に、薬草が泥だらけです。採取時に汚れちゃいますね。


 汚れるのを覚悟して刈りつくしてしまいたいですが、次の依頼のために少しは残しておかないとダメなんですよね。でもレアものだけは全部私のものだよ。


「ノノア、見てみろ。これって貴族に大人気のキノコじゃないか?」


「う~ん、私には必要ないからな~。別にいいかな?」


「バカだな、貴族に人気ってことは高く売れるんだぞ」


「ベアくん、刈りつくすよ」


 今日の稼ぎは大量の薬草と、高級キノコ。


 金貨でのお支払いは確実だよね。


 これでしばらく仕事もせず、のんびり暮らせるかな?


 そう言えばディーン兄は水源調査って言ってたっけ。


 私もこれは水源調査といっても過言ではないよね。


「ベアくん、ここの湖に異常がないかを調査したら、私も水源調査の依頼を達成したことになるかな?」


「無理じゃないか? だってノノア、ギルドで依頼を受けてないだろ? 討伐系なら部位証明で報酬は出るけど調査はダメなんじゃないか?」


「え、そうなの? でもディーン兄は一緒に来るかって誘ってくれたじゃない。それって調査依頼があったも同然でしょ?」


「仮にその理屈が通ったとして、何もありませんでしたって報告して報酬がもらえると思うか?」


「何もなくなんかないよ。見てよこの大量の薬草。異常事態だよ、きっと。それに水も増水して濁っているし……」


 それに、なんか森の匂いがいつもと違うんだよね。なんか生臭いって言うか……ベアくんじゃ気が付かないかもしれないけど。


 「それで水の濁りは別として、他の冒険者が珍しい薬草を求めてやってきて、残った薬草を根こそぎ持っていくと」


「そ、それは困るな……」


「あと大事なことがひとつあるけど聞く?」


「せっかくだから聞いておこうかな」


「ここの湖って、街の水源になってないと思うから、そもそも水源調査にならないんじゃないのか?」


 ガーン!


 そうでした、ここは森の奥の湖。


 街に流れる川の水には関係がありません。


 ということは……追加ボーナスの獲得は無理そうですね。


「ベアくん、帰ろっか」


「そうだね。大分稼いだと思うよ」


 ベアくんの魔法で収穫物を収納してもらい、街に戻ることにします。


 今日は美味しいご飯が食べられそうです。


 そうだ、宿のご飯もいつもの格安定食から、今日はワンランクアップで豪華にしましょう。


 最近安い定食が美味しくないんですよね……


 ディーン兄もそんなこと言っていたし。

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