第12話_ふたりが聖夜にみる夢は?
蘇明が現れる気配はなかったが、パーティは予定通り16時に開始した。
時間などの関係もあり、料理は全て出来合いのものを用意していた。
テーブルには、唐揚げ、フライドポテト、アボカドとサーモンのカナッペ、タマネギと生ハムのマリネサラダなどが並んでいた。
あとは各自が持ち込んだお菓子類とジュースが数種類取り揃えられていた。
ワンルームに7人は少々手狭だったが、盛り上がりに支障はなかった。
各々が学校での1年間の話題に花を咲かせる中、蘇明のストッパー要因として呼ばれていた代篠は、食べることに集中していた。
ただ途中、代篠のスマホが執拗に着信を知らせ、蘇明が起きたのかと思ったが、そうではなかったらしく、帰省した姉からの呼び出しコールだということだった。
あまりにも通知が多いので、最終的には代篠のスマホは電池が切れそうになっていた。
それでも代篠は通話に出る気はないようだった。
オードブルがあらかた片付き、テーブルが空いてきたので、愛野たちの選んだケーキを出す。
最初は1ホールのモノを選ぼうとしたが、選択肢に幅が欲しいという他3人の主張でピースで売られているモノから選ぶことになった。
結果選ばれたのは、いちごショート、チョコレートケーキ、フルーツタルト、バスクドチーズケーキの4種をふたつずつと相なった。
それぞれ好みのモノを選びとっていく、愛野はいちごショートを、俺はチョコレートケーキを選んだ。
愛野がひと口ちょうだいとせがむので、食べさせてやっていると周囲からは生暖かい視線をもらうことになった。
卯廻と鯉墨も同じようなことをしていたはずなんだがな。
最後にひとつ残ったケーキを愛野は物欲しそうにみていたが、意図せず欠席となった蘇明の分なので、きっちり冷蔵庫で保管しておくことにした。
門限が迫った18時を回り、後片付けや帰宅時間も考慮して早めにパーティはお開きとなった。
みんなを送り出し、最後まで残っていた愛野と部屋の片付けを済ませる。
「愛野はどうするんだ。今日は泊まるのか?」
「ううん、門限までって約束だからボクも帰るよ」
「そうか、じゃあ途中まで送るよ。門限まではまだ少し時間あるしな」
コートを羽織り、部屋を出る。
朝とは比較にならないほど冷え込んでおり、寒さが身に染みた。
エントランスを出ると、その寒さはより一層顕著になった。
「さむーい、朝とは比べ物にならないね」
「だな。日が沈むと一気に冷え込むな」
学園麓の商店街までの坂道を愛野と並んで歩く。
「来年もこうしてみんなで集まれるといいね」
「そうだな」
それからは会話もなく、ただただ静かに歩き続けた。
気まずいといったこともなかったが、特に話すべきことも思いつかなかった。
「それにしても冷えるね。手袋持ってくればよかったかな」
そう言った愛野はちらりと視線を寄越してきた。
意図するところを察して俺は手を差し出す。
「俺の手はそれほど暖かくはないかもしれないけどな」
「いーのいーの」
俺の手を握った愛野は、満面の笑みを浮かべた。
そのまま歩いていると、愛野は空を見上げて立ち止まった。
「どうした?」
「……雪、降ってきたみたい」
愛野は繋いでいない方の手を差し出し、降ってきた雪を受け止めていた。
手のひらに落ちた雪は体温ですぐに溶けてしまうが、それを気にした様子はなかった。
再び歩き出し、ある程度送っところで、愛野はぴょんぴょんと跳ねるように前に出る。
すると別れを惜しむように少し寂しげな顔をして言った。
「今日はありがとね。じゃーね」
寂しい顔をさせたまま別れるのはどうにも落ち着かなかった俺は、そのまま立ち去ろうとする愛野を思わず呼び止めていた。
「愛野」
「なに?」
「今日は久しぶりに向こうでも話さないか……今日をもう終わらせるには少しもったいないような気がしてな」
「いいけど、太椋くんがそんなこと言ってくるの珍しいね」
「そんな気分になることもあるさ、俺にもな」
一転して喜ぶ姿を見せた愛野を目にして、ただ俺はこの姿が見たかっただけなのだと自覚した。
「それじゃ改めて、また夜にね」
「ああ、気を付けて帰れよ」
パタパタと駆けていく愛野の背中を見送りながら、俺は深々と息を吐いた。
帰宅すると俺の部屋の前に誰かが立っていた。
それは考えるまでもなく、蘇明の姿だった。
どんよりとした空気を背負ったように、前のめりになっていた蘇明は、帰宅する俺の姿を見つけ、涙目で迫って来た。
「太椋、パーティはどうなったんだ」
「もう終わったよ。30分以上前にな」
「なん……だと」
驚愕した蘇明は、よろけるように壁に背を預け、ずるずると廊下に座り込んでしまった。
「そういや蘇明の分のケーキ残してあるから、持ってくるわ」
蘇明の反応はなかったが、俺は冷蔵庫からケーキを取ってくると、箱ごと蘇明に受け渡した。
それを受け取った蘇明は、幽霊のようにふらふらと不確かな足取りで自分の部屋に帰って行った。
やがて夜を迎える。
降っていた雪はいつの間にか止んでいた。
いつもの就寝時間、俺はどこか緊張しながらもどうにか眠りに就くことが出来た。
夢の中での目覚め、それを出迎えるように愛野は俺を待っていた。
服はさっき目にしていたフェミニンなものとは様変わりして、ガーリィなものになっていた。
「や、太椋くん。さっきぶり……うーん、こっちだとお久しぶりになっちゃうのかな」
「愛野が覚えていて、俺が覚えてない夢とかもあったりするのか?」
「どうかな。でもサキュバスの能力の影響下にある夢は、現実に近い体感を得ることになるから、そうそう忘れることはないと思うよ」
「そういうものなのか」
「それより太椋くん。なにかご希望とかあったりする?」
「希望?」
愛野は勿体ぶるように口元に指を当て微笑む。
「夢って、自由だからどんなシチュエーションも思いのままだよ。例えば──」
そう言って愛野が大きく両手を掲げるように振ると、ひらりひらりと空から雪が降り始めた。
「この通り、現実ではすっかり止んじゃってた雪も、こうして自由に降らせることも出来るんだよ」
楽しげに語る愛野の姿に、俺はどこか懐かしさのようなものを覚えた。
それはついさっき現実での愛野との別れ際に感じた感情とは、どこか違っていた。
それを確かめるために俺は愛野に、あのとき思わずこっちで逢うことを提案していた。
それはどうにも自分勝手で、わがままな行為だった。
ずっといろいろと言い訳のような理由付けして、認めることが出来ずにいたが、どうやら認めるしかないらしい。
俺は……現実でようやく逢うことの出来た愛野のことが──。
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