第6話 2つの進路




 補助員の方に手伝ってもらいながら、身体にロープを装着し、金具で固定していく。


 次に、天井からの張力テンションを調整してもらい、祈動きどう適性検査の準備は終わった。

 俺以外の残り9人も同じ作業をし、準備が完了する。


「それでは、ただいまより祈動適性検査を始めます。30秒後にを起動させますので、自然体でお待ちください」


 試験官が宣言した。




 緊張する。


 周りをちらっと見ると、先ほど控室で余裕そうな表情をしていた人も、さすがに顔が強張っている。


 無理もない――


 そうこうしているうちに30秒が経過し、中央の赤い水晶のような物体が、わずかに明滅し始めた。



 おお、なんだか綺麗だな。

 そう思った瞬間――






 あ、俺、空飛べるわ。






 そう確信した。

 だが待ってほしい。決して、頭がおかしくなった訳ではない。


 鳥が、誰にも教わらずとも空を飛べるように――


 魚が、孵化した時から泳ぎ方を知っているように――


 あるいは、赤ん坊が、誰にも教わらずに立ち歩きを始めるように――


 理屈ではなく、魂や本能が、


 むしろ、今まで飛べなかった自分が不完全だったとさえ思える。

 生まれた時から目隠しをして過ごしてきた子供が、初めて目隠しを取って世界の美しさを知ったような――そんな気分だった。




 だから、俺は自分が抱いた感覚を実行に移す。


 足のかかとが自然と持ち上がった。

 次に、落下防止用のロープの張力テンションが弱まる。

 そして、地面から30センチくらいの高さで浮遊した。


 試験官が顔色を変えてこちらを見ている。

 他の受験者も、自分の試験そっちのけで、俺を驚愕の顔で見ていた。


 俺はそのまま5メートルほど浮遊し、ゆっくりと着地する。




 その場を静寂が支配し――




 そして――




「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉー!!!」」」


 歓声が木霊こだました。


 俺を含めた受験者がロープの金具を外してもらうと、みんな一斉に俺の元に駆け寄ってくる。


「お前すごいな!!」

「まさか祈動士誕生の瞬間に立ち会えるなんて!」

「すごい確率だぞ!」

「名前教えてくれよ!応援するからさ!!」


 口々に言ってくる。

 俺が目を白黒させていると、試験官が駆け寄って来る。


「おめでとう。君は祈動士の才能があるようだ。今後の手続きについて話があるから、別室で時間をもらいたい。」


 そう言われた。


「――わかりました。」


 いまは、そのように返すのが精一杯だった。

 その後、他の受験者は口々に俺に声をかけながら退室していった――




 ――と思ったら、1人の少年が近づいてきて言った。


「おめでとう!本当は俺が選ばれたかったけど、こればかりは仕方ないよな……」


 悔しそうな顔で、そう漏らした後、言葉を続ける。


「お前も知っていると思うが、帝国の、人類のおかれている状況は苦しい。俺は、弟たちが――小さな子供たちが安心して暮らせる世界を取り戻したくて、祈動士になることを夢見ていた。その夢は叶わなかったけど、これからは1人の兵士として戦場で戦うつもりだ。」


 だから――とその少年は続けた


「俺の分まで、立派な祈動士になってくれ!帝国を、人類の未来を救ってくれ!!」


 両肩に手を置いて言われた。

 その手はとてもゴツゴツとしていて、俺の知っている同年代の男子とはまるで違っていた。


「………………」


 あまりの熱意に、俺は何も返せなかった。

 そんな俺の様子をどう解釈したのかわからないが、その少年は最後に俺の肩を叩いた後、係員の誘導で試験場を退室していった。






 別室のソファで待機していると、先ほどの試験官の上司なのか、少し年上の男性が入室してきた。

 慌てて立ち上がると、そのままで良いと着席を勧められる。

 その言葉を受けて、再びソファに腰を落とす。


 男性から名刺を渡されたので受け取る。

 肩書を見るに、やはり先ほどの試験官の上司なのだろう。


「このたびはおめでとう。」

「……ありがとうございます。」


 無難だが、そう返しておく。


「今回の試験で、君は祈動士としての適性を認められた。来春より祈動学校きどうがっこうに通ってもらうことになる」


「――すみません。祈動学校とは?」


 おそらく、この世界の人なら常識なのだろうが、さすがに聞き流せずに質問する。


「おや、祈動学校を知らない?珍しい子もいたもんだ。」


 男性は不思議そうに首をひねったあと、言葉を続けた。


「祈動学校とは、ひとことで言えば祈動士の養成学校のことだ。全寮制で2年間、祈動士として実戦に耐えられるだけの力を付けてもらう。」


 そのように教えてくれた。


「このあと話そうと思っていた内容にも関係するから続けるが、ひとくちに祈動学校と言っても、日本国内には陸軍祈動学校りくぐんきどうがっこう海軍航空祈動学校かいぐんこうくうきどうがっこうの2校があるんだ。君には、このどちらかに進学してもらうことになる。」

「ありがとうございます。ちなみにその、学費とかは?あと、卒業後の進路はどうなるんですか?」


 もうこの際、聞けるだけ聞いておこう。

 特に学費については大いに困る。これ以上、姉ちゃんに迷惑をかけたくない。


「ははは、学費などかかる訳がないだろう。むしろ祈動士候補生として、士官学校に準じる形で国から給金も出る。それと卒業後の進路だが、基本的に陸軍祈動学校を卒業した場合は陸軍祈動連隊りくぐんきどうれんたい、海軍航空祈動学校を卒業した場合は海軍航空祈動連隊かいぐんこうくうきどうれんたいに入隊することになる。」


 笑いながら、詳しく教えてくれた。


 給金――それはかなり魅力的だった。

 少しでも姉ちゃんの助けになりたい。


「話を戻すと、陸軍祈動学校と海軍航空祈動学校のどちらに進学するかは、君の祈動士としての適性に基づいて判断する。つまり――」




 今月末に追加の適性検査をやるので、今日と同じ場所に出頭してほしい。


 そのように伝えられて、日時と場所が書かれた書類を手渡された。



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