第7話 咒力と祈動力
帰りの列車の中で、今日の検査結果を思い出す。
2万人に1人の祈動士適性、それに選ばれたのだ。
あの、赤い水晶が明滅した瞬間に感じた高揚感は、すっかり消えてしまっていた。
だから、いまの俺には実感がない。
しかし――
だからこそ、もっと
そう思う自分がいた。
俺は、元の世界にいたときから、将来の進路に悩んでいた。
より正確には、自分が興味を持つもの、心血を注げるものを見つけられずにいたのだ。
しかし、あの試験の瞬間、俺は確かに高揚していた。感動していた。渇望していた。
あの感情が一過性のものか分からないが――
手元の、試験場で手渡された“航空祈動士適性検査受験票”という紙に目を落とす。
まずは、つかんだ切符を手にし、確かめてみよう。
そう考えて、決意を新たにした。
姉ちゃんの自宅の最寄り駅に着いて、家までの道を歩く。
周囲に高い建物はほとんど無く、やはり自分が過去に来たことを強く実感する。
現代であれば、マンションやビルが立ち並んでいるだろう。
帰り際に、何か買っていくものがあるか姉ちゃんに聞こうとして、スマホがないことに気がつく。
やはり、まだ慣れないなぁ……。
ふと、道端で鳩の群れが、落ちているパンくずを食べているのが目に入った。
紺色の鳩ばかりの中、一羽だけ茶色の鳩が混じっていた。
――何だか俺みたいだな。
そう、一人
姉ちゃんと一緒に夕飯を食べながら、今日の検査結果を報告した。
2万人に1人の確率なのだ。どれほど驚くかと思いきや、以外と冷静だった。
「――なんとなく、志道なら選ばれる気がしてたの。女の勘だけどね。」
そして寂しそうに続ける。
「海軍航空祈動学校なら横須賀だけど、陸軍祈動学校だと、今日検査を受けにいった多摩になるわね。もしそうなったら寂しいな。」
「―――え。」
やばい、それは頭から抜けていた。
正直、いま俺がこの状況でかろうじて平静を保っているのは、姉ちゃんの存在によるところが大きい。
「ね、姉ちゃん、次の航空祈動士適性検査、絶対に合格するから!絶対に!!」
俺は思わず、自分に言い聞かせるように、そう宣言した。
航空祈動士適性検査の日がやってきた。
俺は、姉ちゃんの見送りを受けて、再び多摩陸軍飛行場にやって来ていた。
航空祈動士適性検査の内容は、これまたシンプルだ。
祈動を発動できる環境下において、
これだけである。
試験官の上司に受験票をもらった時に教えてくれたことを思い出す。
『まず前提として、“黒キ影”の中には飛行能力を持つ個体が多い。必然的に、祈動士には空中での戦闘能力が求められる。』
『そして、日本周辺における“黒キ影”の占領地域は2つある。東のハワイ諸島と、西の中国大陸だ。日本に襲来する“黒キ影”は、基本的にこのどちらかよりやって来る。』
『このことを踏まえると、“黒キ影”から日本を防衛するにあたり、海軍の想定迎撃空域は西太平洋となる。ハワイから襲来する“黒キ影”を海上で迎撃する訳だ。』
『それに対して、陸軍の想定迎撃空域は中国大陸となる。これは、大陸諸国の同盟軍に我々帝国陸軍も参加しているからだ。つまり、中国大陸の奥地から押し寄せる“黒キ影”を、大陸諸国が力を合わせ、陸上で迎撃する形になる。』
『この2つの違いは、陸地の有無だ。』
『陸軍所属の祈動士の場合、祈動力を用いた滞空能力に多少不安があっても、祈動士として戦うことはできる。下が陸地なので、飛行と着地を繰り返したり、限界が来たら着地して休息を取ることも可能だからだ。』
『一方で、海軍所属の祈動士だとそうはいかない。下が太平洋――海だからだ。祈動力が底をついて、空を飛ぶことができなくなった祈動士は、海に墜落するしかなくなる。』
『そのため、海軍に所属する祈動士は、例外なく6時間以上の滞空能力が求められる。それが、過去の経験上、実戦運用できる最低限のラインだからだ。』
『それをクリアすることのできる祈動士を
試験官の上司は、そのように説明してくれた。
航空祈動士の適性割合は、祈動士全体のさらに約1/5――つまり、約10万人に1人という稀有な才能らしい。
航空祈動士適性検査とは、それを見極めるためのものだ。
再び、多摩陸軍飛行場内の祈動演習場にやってきた。
前回は大勢いた受験者だが、今日は俺一人だ。
控え室に通されることなく、試験場にやってくる。
そこには、前回と同じく天井から吊り下げられた落下防止用のロープと、赤い水晶が設置されていた。
試験場で待機していた試験官が話しかけてくる。
「
「わかりました。」
俺は、そう答えた後で、前回の適性検査の際にも気になっていたことを尋ねてみることにした。
何と言っても、この試験場にいるのは俺1人だけだ。今なら多少質問しても、周りの迷惑にはならないだろう。
「あの……試験の前に、1つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。何でしょうか?」
試験官の男性は、特に嫌そうな顔もせずに質問を促してくれた。
「前回の適性検査の時にもありましたが、あの赤い水晶は何ですか?見たところ、祈動を使うには、あの赤い水晶が必要みたいですが……?」
すると、特に隠すことでもないのか、すぐに教えてくれた。
「ああ、あれは“黒キ影”の
「―――え゙。」
俺は思わず口から変な声が出て、慌てて赤い水晶を見つめた。
これが、“黒キ影”の身体の一部……?
「初めて見る方は驚きますよね。ご存知の通り、“黒キ影”が操る
試験官は色々と専門的な説明をしてくれたが、そもそも祈動や“黒キ影”について、3週間前に初めて知った俺にとっては理解が難しかった。
ただ、その話を聞いてしまったからには、先ほどまで綺麗だと感じていた赤い水晶が、何だか不気味な物に見えて仕方がなかった。
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