第4話 小さな勝利、大きな挫折


ティオは、朝の森に足を踏み入れた。

昨日の訓練での疲労はまだ残るが、胸は期待で膨らむ。

「今日は、少しでも強くなるんだ…!」

小さな拳を握り、剣を軽く振る。


森の中は、静かだが緊張感が漂う。

葉のざわめき、鳥の鳴き声が、すべてが戦場のように思える。

ティオの目は真剣そのもの。初めての単独依頼に挑む日だ。


最初に現れたのは、細長い体の灰色の魔物だった。

素早く動くが、昨日の経験を思い出し、ティオは冷静に剣を構える。

「焦らない…相手を見て、動きを読む」

思考と体が少しずつ一致し、剣が自然に振られる。


一撃で魔物を仕留め、ティオは小さく笑った。

「やった…!できた!」

初めての成功は、彼の自信を大きく揺さぶった。

小さな勝利だが、胸には誇らしさが満ちていた。


しかし、森の奥に進むと、状況は一変した。

複数の魔物が待ち構えていたのだ。

三匹の黒い狼が低く唸り、ティオに向かって飛びかかる。


「これは…やばい!」

動揺で足が止まる。剣を振ろうとするが、体が思うように動かない。

狼の一匹が肩に飛びかかり、痛みが走る。血がにじむ。


ティオは咄嗟に剣で反撃するが、力が空回りする。

倒すどころか、さらに仲間のように群れが迫る。

「僕…弱すぎる…」

心の中で自己嫌悪が広がり、恐怖が胸を締め付けた。


そこに、レオの声が森に響いた。

「落ち着け!体を固めるな、流れに乗れ!」

風のような動きで魔物を次々と倒していくレオの姿が見える。

ティオはその背中を見つめながら、自分の未熟さを痛感する。


一度は諦めかけたが、ティオはもう一度剣を握り直す。

小さな勝利で得た自信を思い出す。

「昨日の僕とは違う…!」

震える手で剣を構え、心を整える。


森の中、魔物との戦いは続いた。

一撃ごとに疲労と痛みが体を包むが、戦うごとに技が身につく。

小さな勝利を積み重ね、少しずつ自分の動きが安定していった。


だが、最後の一匹が現れた。

体は大きく、牙と爪は鋭く、攻撃のスピードも速い。

ティオは必死に剣を振るが、タイミングを外し、肩に深く爪が刺さる。


痛みと血に顔をゆがめ、ティオはその場に膝をついた。

「だめだ…僕じゃ…」

挫折感が一気に押し寄せ、涙が頬を伝う。

努力しても、まだまだ力が足りない現実が胸に突き刺さった。


そのとき、レオが駆け寄る。

「落ち着け、ティオ。力だけじゃない、戦いは頭と心だ」

手早く魔物を片付け、ティオの肩の傷を確認する。

「痛みは力の証だ。怖がるな、次に活かせばいい」


ティオは震える手をレオの肩に置き、うなずく。

「はい…次は…必ず」

まだ弱い自分を受け入れ、次への決意を胸に刻む瞬間だった。


森を抜け、帰路に着くと、ナリッサが笑顔で迎えた。

「怪我は大丈夫?でも、随分成長した顔だね」

ティオは肩を押さえつつ、笑みを返す。

「まだまだだけど…少しは強くなれました」


ギルドに戻ると、ザレクが静かに声をかける。

「勝利も挫折も、すべて経験だ。今日の経験を忘れるな」

ティオはうなずき、心に刻む。

一歩ずつ進むこと、成長の痛みを知ること、それが剣士への道だ。


夜、寝床に横たわりながらティオは天井を見つめる。

小さな勝利と大きな挫折が、胸の中で渦を巻く。

「僕は…絶対に諦めない…次はもっと強くなる!」

涙と痛みを抱えた少年の決意は、静かに、しかし確かに燃え上がった。


小さな一歩は、未来の剣聖への大きな道標となる。

そしてティオは、次の冒険に向けて心を固める。

明日も、また試練が待っている――

しかし、もう恐れることはなかった。

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