第3話 師匠との約束
ティオは、ストーンヘイブンのギルド広間で立ち尽くしていた。
昨日の森での戦闘の傷がまだ肩に残り、痛みが鈍く響く。
「ティオか…あの小僧、なかなかやるな」
ギルド長ザレクの低い声が耳に届く。威厳のある口調だが、
その目には小さな期待の光もあった。
ティオは胸を張り、剣を握り直す。
「はい!もっと強くなります!」
言葉に力を込めるが、心の奥には不安も混ざっていた。
その時、広間の奥から足音が近づく。
長い黒髪を風に揺らす青年、レオだ。
剣豪として名を馳せるAランク冒険者。ティオの憧れの存在だ。
「弟子にしてくれ…!」
ティオは勇気を振り絞り、レオに向かって叫んだ。
胸の高鳴りと、震える手の感覚が彼の決意を示す。
レオは一瞬、目を細めてティオを見つめた。
「弟子?まだ甘い考えだな。お前はGランクだろう?」
冷静な声だが、ティオには少し温かみも感じられた。
「だからこそ、僕は…!」
言葉を飲み込む前に、ティオは胸の奥から湧き上がる思いを叫んだ。
「もっと強くなりたいんです!あなたのような剣士に…!」
広間に一瞬、静寂が訪れる。
レオはため息をひとつつき、剣を軽く振って見せた。
「まずは基本を極めることだ。俺の技をそのまま真似しても無駄だ」
その声に、ティオは少し落ち込みつつも、心を奮い立たせた。
「基本って…どういうことですか?」
ティオの目が真剣に光る。彼の全ての希望がその質問に集まっていた。
「剣とは、体の動かし方、重心の置き方、呼吸のタイミング…
そういう小さなことの積み重ねだ。それを理解しないと、
どんな技も役に立たない」
レオはゆっくりと説明する。戦いの経験と理論が混ざった言葉だ。
ティオはうなずき、胸の奥で決意を固めた。
「わかりました…基本から学びます!」
その声は、昨日の森で味わった敗北と痛みを乗り越えた力強さに満ちていた。
ザレクが静かに口を開く。
「お前に与える試練は、簡単ではない。無理をすれば怪我もする」
ティオは小さく息を吸い、肩の痛みを押さえながら応じた。
「それでも、やります!」
その日の午後、ティオはレオと共に訓練場に向かった。
剣の基本動作から始め、重心移動、突きと斬りのフォームを何度も反復する。
最初はぎこちなく、剣先がぶれる。汗が額を伝う。
「そうじゃない、体をもっと一体化させろ」
レオの指摘に、ティオは何度も剣を振り直す。
だが、少しずつ、体と剣が連動する感覚が芽生えた。
「見ろ、力じゃない。剣は意志の延長だ」
レオが見本を見せると、動きは風のように滑らかで正確だった。
ティオは目を見開き、息を呑む。
「これが…本物の剣士の技か…」
夕暮れになり、訓練場に赤い光が差し込む。
ティオは疲労で足が重いが、心は軽やかだった。
「今日から、僕は弟子です」
胸の奥で小さな誓いが生まれる。
レオは少しだけ微笑む。
「お前が本気なら、俺も手を抜かない」
その言葉は、ティオにとって最高の承認だった。
夜、ギルドに戻る道すがら、ティオは空を見上げる。
星がひとつずつ輝き、冒険者の世界の広さを示しているようだ。
「僕は、絶対に強くなる…そして、いつか…」
胸の奥で夢がさらに大きく膨らむ。
ギルドに戻ると、ナリッサが手を振りながら声をかける。
「今日も頑張ったね、ティオ!」
ティオは笑顔でうなずき、剣を磨きながら答えた。
「はい!明日も、もっと強くなります!」
こうして、ティオの師弟関係は静かに始まった。
まだ小さな少年だが、心は確かに成長を望んでいる。
未来の剣聖への道は、まだ険しいが、確実に一歩が刻まれたのだ。
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