第2話 初めての試練


ティオは、朝の薄明かりに包まれたミルデンの森に立っていた。

初めての正式な冒険依頼だ。Gランクでも、彼にとっては大きな挑戦。


「まずは、小さな群れからだ。焦らず行け」

ナリッサの言葉が、昨日のギルドでの助言を思い出させる。

ティオは剣を握り直し、深呼吸をひとつ。心を落ち着ける。


森の奥から、かすかなざわめきが聞こえる。

小さな影が枝の間を飛び跳ね、葉がざわめく音がする。

「きっと、あれが魔物だ…」

ティオの胸は高鳴り、手に力が入る。


最初の魔物は、リスほどの大きさの灰色の獣。

小さくても、牙と爪は鋭く、攻撃を受ければ痛みは避けられない。

ティオは剣を振るが、ぎこちなく、攻撃は空を切った。


「だめだ、速さが足りない…!」

魔物が反撃して跳びかかる。肩にかすめた爪に痛みが走る。

それでも、ティオは踏みとどまり、剣を振り続けた。

ひとつひとつ、動きの癖と距離感を体で覚えていく。


その時、風のような影が森を駆け抜けた。

レオだった。Aランクの剣豪が、軽やかに現れた瞬間、

ティオの目に映る剣先の動きは、時間がゆっくりに見えるようだった。


「焦るな、基本を体で覚えるんだ」

レオの声は冷静だが、優しさも含まれていた。

魔物は瞬く間に斬り伏せられ、森には静けさが戻る。


ティオは、膝をつきながら息を整える。

「どうして、あんなに速く動けるんだ…」

憧れの存在の強さに圧倒され、同時に自分の未熟さを痛感した。


しかし、心が折れたわけではない。

胸の奥で、まだあきらめない火が灯っている。

「僕も、あんな剣士になる…!」

ティオは拳を握りしめ、決意を新たにした。


森を抜け、簡単な魔物の群れを討伐しながら進むティオ。

小さな成功の積み重ねが、少しずつ自信を生む。

剣を振る手の動きも、最初よりは自然になってきた。


だが、森の奥には予想以上の魔物が潜んでいた。

三匹の黒い狼が現れ、ティオに向かって低く唸る。

心臓が跳ね、体が硬直する。まだ経験が足りない戦いだ。


「落ち着け、動きを読むんだ」

昨日のナリッサの言葉を思い出す。

ティオは深く息を吸い、剣を構える。

黒い狼が一斉に襲いかかる。


一匹目を斬るが、二匹目の攻撃が迫る。

反応が遅れ、肩を引っかかれた。痛みが走る。

しかし、転ぶわけにはいかない。

足を踏ん張り、剣で反撃する。体が次第に連動して動き出す。


戦いは長く感じたが、少しずつ魔物の動きを読むことができた。

斬る、避ける、踏み込む――基本動作を繰り返すたびに

体が自然に動くようになっていく。


戦闘が終わったとき、ティオの肩には小さな傷が残る。

血の味と疲労が体に広がるが、心は満たされていた。

「これが、剣士としての一歩か…」

初めての実戦で、剣の感覚と戦う意味を少し理解できた。


森を出ると、レオが待っていた。

「よく踏みとどまったな。成長は見える」

その言葉に、ティオは心から喜び、少し誇らしげに胸を張る。


「でも、まだまだだ…もっと強くなる」

ティオの瞳は、これから訪れる数々の試練を

迎える覚悟で輝いていた。


森の出口に差し掛かると、ナリッサが笑顔で迎える。

「初めての冒険、どうだった?」

ティオは汗と泥にまみれながらも、力強く答えた。


「僕…やっぱり、剣士になります!」

その声は、昨日よりも確かなものになっていた。

初めての試練を乗り越えた少年は、

少し大人になり、剣士としての道を歩き始めた。

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