剣聖への軌跡 ―少年ティオの冒険譚―

塩塚 和人

第1話 憧れの剣士


ティオは、朝日が石造りの街並みに反射する

ストーンヘイブンの街角に立っていた。13歳の小柄な

少年にしては、剣士見習いの装備が少し大きく見える。

胸に抱くのは、ただひとつの夢――強き剣士になること。


「今日から、僕も冒険者だ…!」

ティオの声は、少し震えていた。胸の高鳴りが

そのまま声になったのだ。


街の中央にある冒険者ギルドの石造りの建物は、

その威圧感に、初心者の心を揺さぶった。

入り口では、明るい笑顔の女性が迎えてくれる。


「いらっしゃいませ、冒険者登録ですか?」

案内嬢ナリッサは、金色の髪を軽く揺らしながら

ティオに手招きした。優しさと活気にあふれる声だ。


ティオは小さくうなずき、受付カウンターに剣の鞘を

置いた。手が少し震えているのを、自分でも感じた。

ナリッサは書類を手早く確認し、ペンを手渡す。


「はい、サインしてね。今日から君も冒険者。」

ティオは深呼吸を一つして、文字を丁寧に書いた。

小さな手のひらに、希望と不安が混ざる感触が残る。


登録を終えたティオは、ギルド内を見渡した。

冒険者たちが笑い、話し、依頼を受ける様子が目に映る。

その中で、一際目立つ青年の姿にティオの目が釘付けになった。


レオ――19歳の剣豪。

Aランク冒険者の彼は、剣を握る手に迷いがなく、

一振りごとに、風を切る音が鋭く響く。

ティオの胸に、憧れと尊敬が同時に押し寄せた。


「いつか、あんな剣士になりたい…!」

小さな決意が、胸の奥で火を灯す。

ティオの心に、冒険者としての初めての本気が芽生えた。


ギルド長ザレクは、長いひげを揺らしながら

遠くから見守っている。威厳があり、厳格な表情。

しかしその眼差しの奥には、公平さと経験に裏打ち

された温かさがあるのを、ティオは直感で感じた。


「まずはGランクの依頼からだな。」

ザレクの低く落ち着いた声が響く。

ティオはうなずき、初めての依頼掲示板に目を向ける。


依頼内容は、近郊の森で魔物の群れを

調査してほしいという簡単なものだった。

だが、ティオにとっては全てが未知の世界である。


装備を整え、森の入口に立つ。

剣を握る手の感触、風の匂い、鳥の鳴き声――

それら全てが、これまでの生活とは違う刺激で

ティオの心を満たす。


森に入ると、視界は樹木の緑に覆われる。

小さな魔物が枝の影から飛び出すたび、

ティオの心臓は跳ねる。剣を振る手はまだぎこちない。

しかし一度一度、体が覚えていく感覚があった。


突然、大きな魔物が現れた。

小柄なティオには恐ろしく、剣先が震える。

だが、逃げるわけにはいかない。胸の奥で

「強くなる」という思いが火を燃やす。


魔物に斬りかかるが、腕は未熟で攻撃は外れる。

反撃で軽く爪が肩をかすめ、痛みが走った。

血の味に、ティオは初めての戦闘の厳しさを知る。


その瞬間、風のような動きが森に響く。

レオが現れ、魔物を一閃。

その剣さばきは、ティオの想像を超える速さと美しさだった。


「焦るな。基本を覚えれば、誰でも成長できる。」

レオの声が、ティオの心に深く届く。

憧れの存在が、目の前で強さと冷静さを教えてくれる。


森を抜け、傷を洗い、再びギルドに戻る。

ティオの心は傷と痛みで満ちているが、それ以上に

希望と夢であふれていた。

冒険者としての第一歩は、こうして刻まれた。


「僕も、あの人のようになる!」

ティオの瞳は、遠くの未来を見据えて輝く。

小さな剣士の冒険は、今、静かに幕を開けた。

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