仲田事務局長の胃壁崩壊日誌:前編
鹿島市観光協会、もとい暗黒観光協会(K.T.A.)の最上階。そこには、選ばれた者しか入室を許されない秘密のティーサロンがある。遮光カーテンに仕切られ、高級なアロマと「絶望」の香りが漂うその部屋で、仲田(なかた)事務局長は膝を震わせていた。
「……仲田さん。今日の紅茶、少し温度が低くないかしら? 私の愛のように、もっと熱くしてくれてもいいのよ?」
微笑みながらカップを置くのは、アニマのリーダー、マダム・グラツィアだ。彼女の「微笑んでいるが目は一切笑っていない」という特技の前に、仲田の胃壁は早くも最初の悲鳴を上げた。
「も、申し訳ございません、グラツィア様! すぐに私の情熱(と給湯室の最新ボイラー)で沸かし直して参ります!」
「いいのよ、座りなさい。それより、昨日の『ムツゴロウ着ぐるみ広報』はどうだったかしら? あなたの魂(アニマ)は、ちゃんと泥と一体になれた?」
仲田の脳裏に、脱水症状寸前で饅頭を配った地獄が蘇る。だが、彼は二重スパイ。ここで弱音を吐くわけにはいかない。
「はっ! おかげさまで、ムツゴロウの気持ちが痛いほど理解できました! 今なら泥の上を這いずり回りながら、鹿島市のふるさと納税をプレゼンできる自信がございます!」
「頼もしいわね、仲田さん。……でも、嘘はダメよ?」
グラツィアの手が、仲田の頬を冷たく撫でる。その瞬間、部屋の大型モニターが起動し、開発責任者のマダム・フォルツァが映し出された。
『グラツィア、お喋りはそこまでにして。仲田さん、いいニュースよ。ガタルギアの新しい強化パーツのテストが必要なの。有人機として、パイロットの和歌さんに負担をかけないための「衝撃吸収用生体ユニット」……要するに、あなたのデータを取るわ』
「ほ、フォルツァ様……。そのユニットというのは、まさか……」
『ええ。あなたが新型の拘束具……失礼、次世代型ビジネススーツを着用して、時速100キロで回転する遠心分離機の中で事務作業をするだけよ。簡単でしょう?』
「簡単の定義が、私の知っている辞書と180度違います……っ!」
仲田の胃が、雑巾のように絞られる。しかし、追い打ちは止まらない。広報担当のマダム・アルモニアが、横からひょっこりと顔を出した。
『あらフォルツァ、私の『ガタのレッドデータアニマルズ』広報プランが先よ! 仲田さん、次は「ワラスボの仮面」を被って、神社の参道でブレイクダンスをしながら特産品を宣伝する動画を撮るわ。SNSでバズらなければ、あなたの給料を全部ガタニウム饅頭で支払うことになっているから』
「……ア、アニマの御心のままに……(もはや胃薬を飲む暇さえない……!)」
その夜。泥の中に潜む**WRSB(ワラスボ)**との秘匿通信。
「(通信音)……仲田、報告を聞こう。マダムたちの動向は……。おい、どうした、返事がない。……その凄まじい「ギュルギュル」という音は、敵の超音波兵器か?🌸」
「……WRSB、さん……。いいえ、私の内臓が、アニマの「寵愛」に耐えかねてサンバを踊っているだけです……。……機密チップは、無事にあの二人(幸来とマキ)に渡りました……」
「……よくやった、仲田。君の胃壁の犠牲は、鹿島の平和の礎となるだろう。……だが、明日の「ブレイクダンス」の件は、俺にも救いようがない。……耐えろ。🌸」
一方、その通信を傍受しようとしていたマキ(🌸)。
「おいおい、なんだこの暗号通信……🌸 仲田のオッサンの胃の蠕動運動をベースにした、全く新しい周波数ホッピングだぜ🌸 某スパイ映画のパクリにしては、あまりにも泥臭くて涙が出てくるんだぜ🌸」
「わぁぁ🌼 仲田さん、お腹の中でオーケストラを飼ってるんだぉ🌼 幸来が、特製のご当地ハーブティーを届けてあげたいぉ🌼」
仲田事務局長の胃壁崩壊カウントダウンは、まだ始まったばかりである。
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