第7話 校外学習(前編)
それから時間が過ぎるのは早いもので、あっという間に2週間が過ぎた。
月城さんとの会話は、少しだけ減ったような気がする。昼休みなどに何かと俺に質問する回数は明らかに少なくなった。
それでも、行き帰りの電車での会話だけは続いていた。あの日以降、今日の授業の話から部活で練習中に起きたちょっとしたこと、はたまたコンビニで見かけた限定アイスまで他愛のない会話が続いている。
校外学習の日になり、クラスごとにバスに乗って自然公園へ。
今夜はここでテントを張って、寝泊りをする。
新しい2年2組が始まってほぼ1か月。大分なじみのあるメンバーになってきて、ここにきてのお泊まりイベント。
俺たちはさっそく班に分かれて、テントの設営をすることになる。とはいっても、男女別々で泊まることにはなるんだが。
要は、班ごとに2つテントを設営する。協力してテキパキ終わらせよう。
「響く~ん、そっち大丈夫そう?」
「ああ、こっちは順調。戸塚さんたちは? 手伝おうか?」
「終わったら手伝ってもらっていい? ペグ? だっけ? が上手く刺さんないわ」
「分かった」
戸塚さんとも上手く連携が取れて、俺たちのテント設営は順調だ。
「パパっと終わらせて、自由時間多めな方が楽しいっしょ」
「それはその通り。大丈夫? 月城さん、俺代わるよ」
ペグを打っている月城さんに声をかける。相変わらず月城さんはクールな表情で汗ひとつかいていない。
ただ、それでもやっぱり、上手くできていないような感じはあった。声をかけると、月城さんは「ん」と澄ました顔でトンカチを手渡してくる。
白のブラウスに動きやすそうな紺のパンツスタイル。春の装いという感じもあり、ブラウスについているリボンもよく似合っている。
「ありがとう、橘くん」
「こういうの、コツがいるからね。任せてよ」
「ふふ、頼もしい」
月城さんは俺にだけ見えるように微笑んだ。それを見て、思わず俺の表情も緩む。
テントの設営を完了し、予定の時刻よりも少し早めに、森の散歩コースへと向かった。
春の木漏れ日が降り注ぎ、緑が豊かでいい空気。たしかに、学校の教室では味わえない感覚で、これは気持ちいい。
「うーん、滅茶苦茶空気いいね。変な虫もいない季節なのが最高」
「ああ、本当に」
戸塚さんがフッと笑う。黒のTシャツは彼女の綺麗なボディラインを浮かせていた。この日に合わせて、ネイルも黒に変えている。手癖なのか、まるでドラムスティックを回すような動きをエアで続けている。
「なんか鳥が鳴いてない? あんまり聞かないかも」
「お、本当だ。何の鳥だろう」
そんな話をしながら、班の皆で歩く。そういえば、なんだか光一がおとなしいような気がする。いつものアイツなら、このあたりでちょっと女子を口説いたりしそうなものだが。
「はぁ~、マジで心が洗われるなぁ……日々の闘争の疲れを癒してくれるぜ」
どうやら、光一が落ち着いてしまうくらいの自然エネルギーが、この場所にはあるらしい。森林浴、恐るべしだ。
「というか、2人はなんでそんな後ろにいんの? 光一くんも叶奏も、もっと
軽い口調で手招きする戸塚さんに対して、なぜか光一はにんまりと笑った。
「いやぁ~、なんか嬉しくってさ。響に気の合う新しい女友達ができてることが」
「何その言い方」
「お前、俺の親みたいなこと言うなよ……」
「いやいや、親みたいなもんじゃんかよぉ。親のような友と書いて親友だろ? 叶奏ちゃんだって、みんなが仲良くできた方が楽しいよな?」
「……うん、そうだね」
光一に話を振られた月城さんは、少し間を空けてからそう言う。
まただ。班分けの日に感じた胸騒ぎと同じ空気がある。
「で、ここを抜けたら川なわけだけど、行く?」
「おぉ! 行こう行こう!」
「ちょ、痛い痛い!」
さっきまでのしんみりはどこへやら、光一が楽しそうに俺に肩を組んできた。
川の流れは穏やかで、正直言うと、写真で見たものよりもなんとなくパッとしない。
まあそんなもんだよな、と思いながら、川の音を聞くと気持ちも安らいでいく。
余計なことを考えないでいい時間、というのもなかなか乙なものだな。
――あの時の月城さん、やっぱり心配だ。
バッと同じように穏やかな時間を過ごしているはずの月城さんを見る。彼女の表情は変わらない。でも、なんとなく俯いているような、そんな気がした。
「月城さん、大丈夫?」
「うん、平気」
そう言ってる彼女は、鉄仮面のような冷たい顔をこちらに向けた。それでも、俺には分かる。月城さん、理由は分からないけど落ち込んでる。
「ごめん、みんな。スマホ忘れたから、取りに行ってくる」
「おー、いってらっしゃい。気を付けてね」
戸塚さんの言葉に、コクリと頷いて、月城さんはさっさと走っていった。
追いかけようか、とも思ったけど、俺が追いかけてどうにかなることでもないような気がした。帰り道で何もできなかった俺に、今更何ができるんだ?
そう思うと、今はひとりにした方がいいのかもしれない、とも思った。戸塚さんもそう思っていそうだし。
――なんて言い訳、誰に向けてしてるんだ、俺は。
「よーし、せっかくだからちょっと川入っちゃうか?」
「……いいな、よし、ちょっと靴脱ぐわ」
俺は何かから逃げるように光一の誘いに乗った。
「おーい、いいけどこっちに水かけないでね~」
なんていう戸塚さんの声も聞こえて、俺たちは3人でしばらく自然公園を楽しんだ。
少し長く遊んでいたが、やはり月城さんは戻って来なかった。
予定では、カレーづくりをそろそろ始める時間だったが、キャンプ地にも戻ってきていないのは不安だ。
「あれ? 叶奏、まだ戻ってないの?」
「……あ、本当だ! 叶奏ちゃーん? ってか、スマホ取りに戻るっつってから全然帰ってこなかったよな?」
あの時ちゃんと追いかけていれば、と猛省した。俺はこの時、どんな顔をしていただろう。きっと真っ青でひどい顔に違いない。
「そうだ。月城さん、方向音痴だった!」
俺は大急ぎで、森の中へと戻って行った。もちろん、月城さんを探すために。
「ちょ、ちょっと! 響! 俺も行くよ!」
「ウチも行く。たまにあの子、思い詰めちゃうんだよね。今朝は全然そんなこと無かったのに。ウチももっと気にしとけば良かった。ごめん、ちょっと荷物見てて!」
戸塚さんと光一も、慌てて俺の後に着いてきてくれた。
俺達は手分けして、月城さんを探すことにした。
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