第5話 班分け会議
「じゃあ、今配ったプリントのメンバーで机囲んで、グループワークで何したいかとか、タイムスケジュールとか作っといてくれ。来週のこの時間で集めるからな~」
えぇ~、という声がこだまする中、狩谷先生はブレずに「今日決まんなくても来週までに決めてくれりゃいいから」と付け足すだけだった。
「残念! 陽葵ちゃんと一緒になりたかったなぁ~!」
光一が大声で輝山さんの方を向きながらそう言うと、輝山さんはくしゃっと笑った。
「鷹野くん、それ女子全員に言って回る気?」
「なんだよ人のこと浮気者みたいにさぁ~!」
「ほら、いいから班で集まるぞ」
わなわなと震える光一を引っ張って、俺は月城さんと戸塚さんがつけてくれた机のところに集まる。
戸塚美香。月城さんから名前を聞いたことはあるし、仲も良い――というか、彼女も同じバンドでドラムをやっているらしい。
黒髪のショートボブで、綺麗にネイルをしている。制服を軽く着崩しており、すらっとしたモデル体型の彼女は、とても月城さんと相性が良いようには見えないが、まあ人を見た目で判断するのは良くないよな。
「お待たせ」
「おぉ、響くんでしょ? いろいろ叶奏から聞いてる。戸塚美香でーす。叶奏と一緒にバンドやってる」
「俺もいろいろ、月城さんから」
「えー、何話したの?」
飾ったピンクの爪で、月城さんの頬をぷにっと押す。それにひとつも動じず、「普通にメンバー紹介しただけ」と返す月城さん。
「本当か~? あることないこと話してない? 例えば下着の色とか」
「いやいや、月城さんがそんな話するわけ――」
「ジョークジョーク。真に受けないでよ、真面目ちゃん。で、そっちが?」
「フッ、どうも。鷹野光一と申します」
「そういうかっこつけいいから。光一ね」
「ああっ! 下の名前呼びドキドキするぅ!」
「とりあえずスルーして本題行こうか」
テキパキしているし、人の扱いが上手い。ダルそうに見えて、しっかりしてる人だな。やっぱり見た目で判断するのは良くないってことだ。
「まず、グループワークでいけるところとして、近くの森の散歩コースとか、そういうのもある。カレー作りもやっとかないと晩御飯ないし。そこでなんだけど、みんな晩御飯は何時くらいに食べてるの?」
投げてくる質問も明確。俺はなんとなく毎日どのくらいの時間で食べてるかを思い出す。
「えっと、19時くらい?」
「俺18時!!」
元気よく光一が手を挙げた。それに対して月城さんも真顔で「私も」と同調する。
「ちなみにウチは19時くらい。じゃあ間をとって18時半だね。それに間に合わせようと思うと、まぁ17時くらいには戻ってこないといけないか」
「じゃあ、実質使える時間は3時間くらいか」
「そうなるね」
俺と戸塚さんがプランを考えている横で、光一はなぜか引き気味だ。
「すげぇ、響が2人で会議してるみたいだ……!」
「うん、美香ちゃんはすごいから。さすがバンドのリーダー」
「え、リーダーなんだ! 最強美人バンドじゃん……!!」
ポンポンとアイデアが出て、その中からスッと決まる。戸塚さんとの会話は心地よさがあった。
「なるほど。このプラン通りにいければ、1時間くらい余裕できるね」
「それだけ時間が空くなら、ちょっと川も見に行きたいよな」
「お、分かる。それ採用で!」
時間キッカリ、というわけにもいかないだろうと戸塚さんが言って、さらに余裕のあるプランが完成する。
「なあなあ叶奏ちゃん。なんか、あの2人いい感じじゃない?」
「いい感じ?」
「うん、雰囲気、相性良さそう~、みたいな。なんかすげぇな。響が活き活きしてんの、珍しいんだよ」
「……そうなんだ」
「そうそう、マジで――」
「おーいそこ2人! ボーっとしてないで、これでいいかって聞いてんの」
つい光一と月城さんを置いてけぼりで話を進めてしまった。でも、そういう時に戸塚さんはきちんとグループとして楽しめるプランを考えようと気遣っている。
月城さんの周りはいい人でいっぱいだな。
「俺はなんでもいい! 叶奏ちゃんや美香ちゃんと過ごせるなら、どんな嵐もかかってこいだぜ!」
「「投げるな」」
「うわ! ハモリツッコミ!?」
「私も大丈夫。さすが、美香ちゃん。神か」
「神じゃなくて戸塚美香」
いつもやってるやり取りなのだろう会話とともに、ふたたび戸塚さんの爪が月城さんの頬をつつく。
「本当もちもち。スキンケア何使ってんの?」
「覇王の乳液」
「え、あれそんな良いんだ。コスパ最強かもなぁ」
でも、何故だろう。一瞬だけ、月城さんの瞳が揺れた気がした。いつも通り、顔には出ていないけど嬉しそうな彼女に、小さな違和感を覚える。
まさか、体育のアレ、まだ気にしてるのか?
「じゃあこれで提出してくるわ。あ、面倒臭いと思うし、ウチこういうの慣れてるから、班リーダーはウチでいい?」
「お、助かるわ~!」
「よろしく」
俺たちに続くように、月城さんもコクンと小さく頷いた。
こうして俺たちは、どの班よりも早くグループワーク予定表を提出するのであった。
帰り道。軽音部が部室を使えるのは、月、水、金の3日だけ。
火曜日の今日は月城さんと一緒に電車で帰る日だ。
月城さんは珍しく、立ったままつり革に手を伸ばし、文庫本を読んでいる。
普段は本を読むことなく、俺に対しての質問責めの時間が来る頃なのに、今日はどうしたのだろう。
よほど本が面白いのかな。
「それ、どんな本なの?」
世間話のつもりで、そう聞いてみた。ハッとしてこちらを見て、慌てて本をしまう。
「……ごめん、一緒に帰ってるのに、本読むなって感じだよね」
「あ、いや、そういうことじゃなく……」
やっぱりなんか変だ。その物語の面白いところとか、そういうことを話してくれるかと思っていたが、違った。
今の俺は、何を言っても彼女を良くない方向に刺激してしまうかもしれない。
なにか、なにか話題を変えないと。
「……校外学習、同じ班になれて良かった」
「へ?」
何言ってるんだ、俺。でも、チャンスかもしれない。今日の帰りで初めて月城さんと目が合った。
「いや、ほら、知ってる友達と一緒だったからさ。月城さんも、光一も。楽しくやれそうだなって思って」
「……うん、私も楽しみ」
少し間をあけて、彼女は微笑む。少し、いつもよりぎこちない気がした。
「あと、戸塚さんもすごく良い人だった。月城さんの周りには、いい友達がたくさんいるなって」
「ああ、うん……ごめんね、班の話し合い、全然意見出せなくて」
「いや、そうじゃないよ。というかアレは、俺たちが2人で話過ぎたというか……」
どうすれば月城さんと楽しい思い出ができるかなって……。
言いかけて、自分の中で言い訳にしか感じられず、口を噤む。
「……ごめん」
ただ一言、何に対してかもわからないまま、俺はそう言う。
月城さんはゆるゆると首を横に振った。
そこから先は、お互い何かを話すことなく、「また明日」だけ言って別れた。
いつもよりも、電車の揺れる音がうるさく聞こえたような気がする。
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