第7話 下見は重要
「サクラやジャックを……
助けることは、できませんか?」
俺は、意を決してジョンに聞いた。
ペロもロウも、自然と俺に視線を向ける。
ジョンはすぐには答えず、
ほんの少しだけ目を伏せた。
「私たちも、
それは何度も考えたよ。
だが――」
静かに息をついてから、続ける。
「ジャックの力を考えたとき、
正面からの救出は、
難しいという結論に至った」
俺は何も言わず、
その先の言葉を待った。
「……今、このギルドで
飼い主を待っている獣人は、五人ほどいる」
ジョンは指を折りながら、名前を挙げる。
猫のタマ。
セキセイインコのセイコ。
ヤギのメープル。
ハムスターのハム。
モモンガのモモ。
「彼らが全員で協力したとしても――
ジャックには、
到底敵わないだろう」
その顔ぶれを聞いただけで、
戦闘向きではないことは明らかだった。
「ペロは、ジャックを知ってるの?」
「うん!
ジャックおじいちゃん、めちゃくちゃ凄いよ!
重い木とか岩とか、ひょいって持ち上げるし、
走るのも、すっごく速いの!」
……やっぱりか。
ドーベルマン。
力、スピード、忠誠心。
どれを取っても、戦闘に向かない要素がない。
ただ、ひとつだけ引っかかった言葉。
ジャック――"おじいちゃん"。
「そうか……
ジョンさんの相棒なんだから、
もう五十年以上、この世界にいるってことか」
「そうだ」
俺の言葉を受けて、ジョンが頷く。
「獣人の寿命は、
動物の種類に関係なく、
おおむね人間と同じだと私は考えている」
「ジャックは、六十歳を超えている。
だが……その力は、まったく衰えていない」
沈黙が落ちた。
サクラを助けたい。
その気持ちは揺るがない。
だが――
どうやって?
「……他に、協力してくれる人は?」
「ここから五キロほど先に、
人間と獣人が共に暮らす村がある」
「だが、そこにいる者たちは、
すでに飼い主と再会し、
穏やかに暮らしている」
ジョンは、静かに首を振る。
「彼らを、
危険な戦いに巻き込むことはできない」
……それも、そうだ。
「基本的に、人間のスキルは
生活を助けるものが多い。
君のように、
戦闘に直結するスキルを持つ者は稀だ」
俺は、小さく息を吐いた。
「ハジメ……
サクラちゃん、助けに行けないの?」
ペロの不安そうな声が、胸に刺さる。
「……諦めるわけじゃない」
そう答えながら、
俺の思考は、別の方向へと切り替わっていた。
まず、必要なのは――
偵察だ。
そう、偵察。
会社のお偉いさんも参加する飲み会で、
運悪く幹事に指名されたとき。
絶対に欠かせないものがある。
それは――
会場の下見。
料理の内容?
サイトの評価?
それも、もちろん大事だ。
だが、それだけじゃない。
靴箱の位置。
テーブルの数。
上座と下座の配置。
通路の幅。
トイレの場所。
それらを把握して、
初めて、この飲み会の次第が組める。
情報なしで突撃するのは、
乾杯の音頭の段取りも決めずに
役員を席に座らせるようなものだ。
それは――
100%事故る未来が待っている。
「……まず、場所を知らないと、
何も始まらない」
俺は顔を上げた。
「偵察に行きましょう」
ジョンが、わずかに目を細める。
「……ほう」
「ジャックを倒すのは無理でも、
サクラを救い出す道は、
あるかもしれません」
「そのためには、
まず、相手の――
ポールの拠点を知らないと」
短い沈黙のあと、
ジョンはゆっくりと頷いた。
「……なるほど、でもどうやって?」
俺は、隣にいたフクロウを見た。
「ロウ。
辛いと思うけど……一緒に来てくれないか」
ロウは、じっと俺を見つめる。
「近くまで行ったら、
上空から様子を見てほしい」
ロウは一瞬だけ羽を震わせ、
小さく、しかし確かに鳴いた。
その小さな鳴き声を合図に――
俺たちは、最初の一歩を踏み出した。
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待ってたよ、ハジメ。 ~再会した愛犬たちと、職業病の俺が、スキル「共生者」で異世界を生き抜く話~ 一進 @kuro2571
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