第9話
「休暇に入った途端急な呼び出し悪いね。昨日、君らがここへ戻ったタイミングで声かけたかったんだけど、声かけて良いような雰囲気じゃ無かったからさ」
そう言って、おれたちを組合の施設の、それも特別な応接室を貸し切ってまで呼び付けた人物は、年齢も性別もぱっと見ではわからないその顔で柔らかく微笑んだ。
豪華な造りのクラシカルなソファを勧められて、おれとノールは言われるままそこに腰掛ける。
「スミマセン……。あの。気を遣わせて、しまった、みたいで」
「ああいや、責めてるわけじゃ無いよ。相変わらず仲が良いようで安心したんだ。そこへ横から顔出すのも野暮って話だろ?」
「出してくれても構わなかったのに」
おれが緊張と申し訳なさで背中を丸めるしかできないでいる隣では、ノールは戸惑い半分、嬉しさ半分くらいの苦笑を向けていた。
「でも、どうして突然ムーサに戻って来たんですか? 前に会ったとき、次は別の銀河で仕事だから中々戻ってこられないって言ってませんでしたっけ」
弾むように問いかけるノールの隣から、おれはその人と向き合う。
「別銀河の仕事はちょっと前に片付いたよ。今度は別の星系に呼ばれてるからそっちに行かなきゃならないんだけど、今はその移動の合間でムーサに呼ばれて、ちょっとだけ寄ったんだ」
慌ただしいだろうと笑うこの人は、ノールの技師の師匠で、名前をナトアさんという。
たぶん男性。年齢不詳。
長く伸びた淡い色の髪と青い目はノールと似ているところがあるけれど、血縁関係ではないらしい。
穏やかな物腰からは採掘業に関わっているようには思えない。だけどこの人は、ムーサで採掘業に関わっていたら知らない人なんていないレベルの有名技師だ。
多くの採掘師に装備を作り、若くして惑星ムーサの黄金期を支えた希代の天才。
この星の採掘量を格段に増やした装備の性能と、設計から組み立てまでの作業時間が驚異的な速度というので評判になって、付いた呼び名が、惑星ムーサの申し子。
おれが惑星ムーサに来た時にはすでに出来上がっていたその伝説を、一から見て来ただろうノールのようなムーサ生まれの技師たちにとって、ナトアさんは憧れを通り越して、尊敬と崇拝の対象になる存在だという。
その技術力は衰えを知らず、未だ現役。他の星系、ときに銀河を越えてもその名前は知れ渡っていた。
おれがムーサに来たばかりの採掘師の見習いをやっていた頃に世話をしてくれた親方、エルデさんという人とチームを組んでいるってこともあって、仕事に関しては昔から浅からぬ縁というやつがあるからこうして話も出来るけど、おれ個人としてなら気安く会って話せるような相手じゃ無いんだよな。本当は。
おれの緊張を余所に、ナトアさんはちらりと横を見て言った。
「呼ばれたついでに、彼らに君たちを紹介しておこうと思って」
「彼ら……?」
ナトアさんの目線の先には、おれとは違う意味だろうけれど、同じように背中を丸めて座る男性がいた。
歳はおれより少し若いか同じくらい。珍しく強い度の入った黒縁の眼鏡に真っ白いシャツという、ナトアさんとは違う系統でムーサの採掘に関わる人の中では見かけることの無い雰囲気だ。
ナトアさんが促すと、その人はおれたちに軽く頭を下げた。
「私はレクトルと申します。ナトアさん、それとノールフェンさんの所属する組合の、研究員をやっております」
「けんきゅう、いん……?」
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